困るわな、キャバレーみたいで

先日の「非ハルキ・ひろ子ジャケとハルキの失速」のコメント欄でご教示いただいたサンダンスカンパニーの


女社長に乾杯! (上巻) (新潮文庫)
女社長に乾杯! (下巻) (新潮文庫)

を二三日前に入手。次郎というハルキ映画の看板原作者に、りえと広之というハルキ役者の映画ジャケなんだけど、その日これよりいいもん手に入れたもんだからそっちの話を。
「プレミア日本版」2002年11月号。で、この号の目玉の一つが「関係者の証言でつづるメイキング・オブ・犬神家の一族」と言う座談会。参加者は市川昆監督、古澤利夫氏す(角川映画アドバイザー)、黒澤英夫氏(東宝映画宣伝プロデューサー)、石坂浩二氏(金田一耕助役)、大野雄二氏(音楽)、長田千鶴子氏(編集)、加藤武氏(よし、わかった!担当)の面々。
ひとまず今回、古澤氏の

60年代後半から70年代半ばにかけて、彼(僕注:ハルキ)は洋画の原作を出していた。それで一発当てたのが、70年の『ラブ・ストーリー』。『ある愛の詩』の原作ね。角川文庫で出して、100万部以上出たんじゃないかな。それがきっかけで海外ものは大物の原作権も取れるようになった。でも日本の、イキのいい人が全然自分を信頼してくれないって嘆いていた。で、目をつけたのが、横溝正史さんよ。

まず映画を記者会見で立ち上げて、現場の取材はどうするか、出来上がってからの宣伝はどうするか、そういうことについて毎晩8時とか9時になると彼の飯田橋のマンションに行って、インスタント焼きそばとかラーメンとか食べながらわいわいやっていた。

あのTVスポットは映画の宣伝費じゃないんです。でも映画の場面が出てくる。横溝正史フェアって言いながら、映画の絵を出すわけ。

なんていう貴重な証言がぽんぽん飛び出すので読んでて非常に面白い。特にハルキ等がUFOだかペヤングだかを啜っているという姿はちょっと想像し難いだけに非常におかしい絵面である。それに「飯田橋のマンション」ということは、ハルキが愛人と暮らしながらリベンジの機会を伺っていて「青山の安アパート」*1から引っ越したのは上記『ラブ・ストーリー』の大ヒットあたりなのかなぁと妄想するのも楽しい(ちなみにハルキのメディアミックス戦略(映画も原作もレコードもヒットする)魂に火をつけた『卒業』を観に出かけたのも青山アパートからなのだが、その前に観た映画が『史上最大の作戦』ってところにハルキの非映画狂ぶりが現れている)。そんでもって黒澤氏の証言の

文庫本の中のしおりで映画の映画の宣伝をして、それを150万とか200万とかの単位で挟み込む

というしおりの数に関して言えばこの当時はともかく『時をかける少女』『探偵物語』のころとなるとおそらく一桁違う数を絨毯爆撃のごとく巻いていたに違いない。


でも、この座談会で断トツに面白いのは市川昆監督の話である。たしかに『犬神』撮影秘話みたいな部分も興味深いのだが、個人的にこの人やはり偉人だなと思ったのが、『犬神』公開直前のハルキの行動を語った

春樹くんは、まあ心配してたんでしょうねえ。あっちこっちの神社回ってましたから

と『犬神』大ヒットの要因の説明

僕は題名がいいと思ったんです。『女王蜂』みたいなのは困るわな。キャバレーみたいで

である。特に“『女王蜂』はキャバレーみたい”けだし名言である。市川・石坂金田一映画(企画・角川春樹事務所なのに『角川映画大全集』には収録されてない非ハルキ映画)とハルキオールスター映画

を無意識に口にするなんて天才以外のなにものでもない(監督自身が天使なのかも)。