悪趣味な死体/じゃない屍体
「悪趣味」はやはりブームだったのだろう、『死体の本―善悪の彼岸を超える世紀末死人学! (別冊宝島 (228))』は版を重ね、僕の手元にあるのは95年8月の初版発行から1年と4ヶ月後の96年12月の12刷である。んで、その「巻末広告」が
である。「好奇心にジャンルはない!」と謳いながらきっちりジャンル分けを施している親切設計で、この頁には「悪趣味」「マンガ」の、この裏には「お仕事」のシリーズを陳列している。「マンガ」の棚に『13マンガ論争!』が無いのが寂しい気もするが、再版(正確には再々版)するほどのことでもなかったんだろう。
さーて、その『死体の本』には「法医学ってなんだかストリップ小屋みたいだなぁ」というウェイン町山(町山智浩)の文が収められているのであるが、この時の「行政解剖」体験は、『人生解毒波止場 (幻冬舎文庫)』の「"一期一会"Aさんとの出会いの巻」と同じもんで、控え室の描写の
本棚には医学書といっしょに『デラべっぴん』や『ドリブ』といっ類の雑誌、あと、なぜか『課長島耕作』『となりの凡人組』が全巻揃っている。
(ウェイン町山)
という微妙な違いに両者の興味の差が感じ取れ、やはり町山智浩の出発点は雑誌編集者なんだなということを改めて思い知らされる。この時の執刀医が夏樹陽子演じる水木恭子や、名取裕子の二宮早紀みたいな美人だったら、また話は変わったんだろうが、ベテランの先生(愛車は黒いポルシェ)の淡々とした作業は「お仕事」そのものであり、当然SHIHOが「膣内壁が疲労してない女医さんYO!」と突っかかってくるなんてことはないのだが、その静かであくまで日常的なところだからこそ、そこに一方が「一期一会の神秘」(誰かが死んでくれなかったら見学できなかったのだから)を、もう一人が「場末なエロ」(取材後に家でレンタルエロビデオを鑑賞してるところを、ちょうど帰宅した奥さんにひどく罵られている)を感じたのだろう。
で、おそらく『村崎百郎の本』の今野裕一インタビューの次のくだりはこの時期のことなのだが、
それ*1がヒットした時に僕、「黒田、お前、『夜想』好きなんだから、ああいう悪趣味なもので『夜想』一冊つくってみろよ」って言ったことあるんです。そしたら「『夜想』はそんな特集組んじゃいけません!それよりアルトーの特集をもう一回組んでください!」って。
面白いことに村崎百郎がここで言ってる『アルトー特集号』のいっこ前の号は
である。ひとまずそこには『別冊宝島 死体の本』とは違って、タイの大衆紙の死体写真だとか、大スターのシリアルキラーの話などはない。まったくベクトルの違う特集だといっていいのだろうが、案外『死体の本』の本の執筆陣の多くが高学歴のインテリだったりするのである。
※ちなみに「水見恭子シリーズ」は犯人がみな電波を受信してそうなろくでなしという、このブームの近辺(デルモンテ平山だとか)を拝借した作品である。
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