マジでやばくてエロい鴨川つばめ

約1年前の約30年前の「まんがマニア」によるベスト漫画家、ベスト・ワースト作品投票結果(だっくす 1978年12月号より) - 情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明の記事を読んで、おぼろげに思ってたことがちょっとだけカタチづいてきたかもしれない。そう、BESTに31位に選ばれながらWORSTの8位にもランクされてしまった

マカロニほうれん荘 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

マカロニほうれん荘 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

のなにが彼ら彼女らに『マカロニほうれん荘』(以下『マカロニ』)への敵意を抱かせたのかということ(ワーストの傾向を見るに、単にギャグマンガが嫌われたってことならそれまでだ)。
QJ』NO.8のコーネリアス小山田圭吾の対談や『消えたマンガ家』のインタビューによれば、最初期のファンが『マカロニ』発表後一気に離れてしまったことや属していた漫画集団に「商業主義に日和った」という批判をうけたらしいので、一部はこういう人らの投票なのかもしれないが、それ以外の人に嫌われる何かを持っていないと8位にはランクされないとはずで、おそらくもっと深いところで投票者であるマンガマニアに不快感を抱かせたのだろう。

少女マンガにより近く

橋本治は『花咲く乙女たちノキンピラゴボウ』下巻「九十九里坂の海賊の家」で、鴨川つばめ江口寿史を並列して論じる際に、彼らのマンガの「少年マンガ」と「少女マンガ」との越境、「少年マンガ」の「少女マンガ」の侵犯を論じているが、その越境の仕方にこの二人の違いが現れていると思う。
「8ビートギャグ」と称されたことで分るように、この二人の作品『マカロニ』と『すすめ!!パイレーツ』とはともにロックやポップのスターやキーワードをふんだんに登場させた。しかし、その登場させた対象が全く異なっており、江口寿史ニューウェーブやテクノのアーティスト(例えばYMOやディーボ、ニナ・ハーゲン)だったのに、鴨川の画面に登場したのはレッド・ツェッペリンやクィーンといった従来のロックグループだった。それは「BSマンガ夜話*1でのすかんちローリー寺西の「鴨川先生ってとっても乙女」とという指摘の通り、「ミュージック・ライフ」や「音楽専科」に載っているような人たちであり、そのアーティストは伊藤剛『マンガは変わる』でのヤオイの源流の調査や少女漫画に出てくるミュージシャンいろいろで判るように、それは少女マンガの読者である「少女の領域」のもの、もっといえば「少女の宝物」だったのである。その少女の大切なものをギャグという形でオカした(侵した・犯した・冒した)『マカロニ』への反発があったのではないかと考えうる。

少女マンガから最も遠いものへ

このランキング。いわゆる「三流<エロ>劇画」ブームの真っ只中だったにも関わらず、その傾向の作品は全く上位に来ていないどころか、まるでそのようなものがなかったかのように無視されている。ワースト1位が『がきデカ』なのも、あきらかにそのようなエロが感じられたからだろう。おそらく、この三流なエロとの共振がそのころの鴨川と江口を隔てているもう一つの要素だ。江口にその要素がなかったというわけではなく、橋本の前傾著に引用されている

に関して「衝撃だった」と「BSマンガ夜話」とつぶやいていることからもその方面への興味はあったものの、おそらく掲載誌『チャンピオン』と『ジャンプ』、秋田書店集英社の方針でそうなったと思われる。
鴨川はコミックの表紙のポップさとは裏腹に、扉絵(上掲の他に、3巻「いとしのミノ虫」「聖夜の大行進」4巻「美しき春の夜」など)で背徳的なエロを堂々と公開し、当時のエロ雑誌(自販機本等)やピンク映画等との共闘を(小声で)宣言したことで、そのあたりに嫌悪を示す層から嫌われた可能性は高い。これは同じサブカルチャー(下位文化)のなかでさらに下位のヒエラルキーに属していたエロへの嫌悪といえるのではないだろうか。
さらに、エロとポップといえば、同時期にエロで活躍していたスージー甘金や奥平イラなどとの共通項や、大のマンガファンで後にポップなロマンポルノを監督することになる金子修介への影響なんてのも考えうるかもしれない。

そんな『マカロニ』を今でも新刊で読めるようにしてる秋田書店って何なんだろう。

参考

クイック・ジャパン (Vol.8)

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消えたマンガ家 (¥800本)

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花咲く乙女たちのキンピラゴボウ〈後編〉

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マンガは変わる―“マンガ語り”から“マンガ論”へ

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『ガロ』93年9月号 特集三流エロ雑誌の黄金時代
『別冊新評 三流<エロ>雑誌の世界」
戦後エロマンガ史

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エロマンガ・スタディーズ―「快楽装置」としての漫画入門

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