松本零士、矛盾の露呈としての『わが青春のアルカディア』

社長島耕作の原発宣伝考察 – 雨時々止む弘兼憲史が話題になってるんだですけど、松本零士も九電その他の協力者として大活躍してるマンガ家の一人です(例。「http://www.kyuden.co.jp/gingatetsudou999.htmlコンテンツ」「放射能除去装置を求めてヤマトは飛んだ」 『原子力文化』対談)。

で、そんな松本センセイ。いくら世間の風向きが変わっても意見は変えないだろうと推測できる発言が『ザ・コクピット 松本零士の戦場ロマン』にあります。

生涯、主義を変えないことでしょうな。倫理的に善悪の問題じゃなくて、大盗賊であろうが独裁者であろうが、一生を一つの生き抜いた男に感動しますね。
戦争という大変ショックで、日本中の価値基準がでんぐりかえったときに、昨日まで鬼畜米英を唱えていた人が、今日はアメリカ民主主義万才というのは不愉快ですな

まあ、良くある主張で、だいたいこの手の人は、戦前・戦中も「自由主義」「民主主義」を貫こうとした石橋湛山*1や、憲法を研究し続けた鈴木安蔵*2を評価しませんし、左から右への転向には何も云わないのが常です。


そんな松本零士が企画・・原作・構成を担った、いわば自分の青春を投影した作品

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で、そんな彼の矛盾が露になります。
この作品は、若きキャプテン・ハーロックが「宇宙海賊」になる契機を、彼の祖先であるところののファントム・F・ハーロックファントム・F・ハーロックII世のエピソードを絡めて語るという非常に燃える話なわけなんですが、飛行家単独の冒険・挑戦を描く「スタンレーの魔女」の方は問題ないのですが、トチローの先祖大山敏郎との出会いを描く「わが青春のアルカディア」をそのままインサートするには厄介な問題があります。これは別な代表作の一つ
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でも、星野哲郎が機械帝国に対抗するレジスタンスとして活動している場面から物語が動き始めるわけなんですけど、この映画『わが青春のアルカディア』もイルミダスに対するレジスタンスに呼応してハーロックは自分の旗を翻すことになるんですね。『宇宙戦艦ヤマト』では欧州の侵略に亜細亜を解放するってな態の良い方便でごまかしは聞いたんでしょうが、さすがにこの映画でレジスタンスを描く際に、ハーロックとトチローの先祖がナチス大日本帝国の戦争に喜んで協力しておるのは不味いと思った人がいたのでしょう。特にはハーロックの恋人がレジスタンスの象徴的人物でラジオ放送「自由の声」の声を担当しているわけですから。だからでしょう。原作マンガとは違ってこの二人は不本意な参加の仕方をしていることになっており、II世の口からは「くだらない戦争」なんて台詞まで聞けます。浅羽通明は『アナーキズム―名著でたどる日本思想入門 (ちくま新書)』で

宇宙海賊キャプテンハーロック』の地球防衛戦争であれ、「ザ・コクピット」のナチス大日本帝国の戦争でアレ、松本零士描く戦闘者たちは、特異なことに、どこまでも自分のために戦う

などと書いてますが*3、単独の作品の中では何とか成立したその方法であることは確かなようです。


さてさて、ハーロックやトチロー、哲郎が今の日本にいたらこの人たちとともに戦うのでしょうか、それとも敵対するのでしょうか。

*1:

石橋湛山評論集 (岩波文庫 青 168-1)

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*2:http://www.hankaikennet21.org/faq/faq4.htm

*3:別の箇所の『ヤマト』が人気を得た理由というのも疑問。おそらく「スタッフ」や「技術」でアニメを語るという作法が広がったことの方が大きいかと。