「空想美少女」としてのジャンヌ・ダルク

斉藤美奈子は『紅一点論』で「ジャンヌ・ダルク伝はヒロイン像の百貨店」であるとして、「伝説」含めた存在を

  • 元祖「魔法少女
  • 元祖「変身ヒーロー/ヒロイン」
  • 元祖「紅の戦士」
  • 元祖「オタクのアイドル」

と論じている。「オタクのアイドル」ということに関しては彼女が挙げているシラー、バーナード・ショーアナトール・フランスが「おたく」かどうかはともかく、現在においても『映画欠席裁判』でFBBのウェイン町山(町山智浩)に「おたくカルトQ映画」と評された「フィフスエレメント」のリュック・ベッソンが『ジャンヌ・ダルク』を監督していることからもうかがい知れることだろう。

同じ斉藤でも斉藤環は『戦闘少女の精神分析』でジャンヌを「戦闘美少女」の系譜から外して、その理由として

もちろんフランスにはジャンヌ・ダルクという「史実」はあった。すべての戦う少女の始祖にして女王。これほどの巨大遺恨を無視するわけにはゆかない。ただし、彼女は、少なくともフィクションとしての欲望・大量消費の対象ではない。そもそも彼女は実在したとされている人物である。このような素朴な史実としての実在性は、ときとしてリアリティを遠ざけることがある。私は消費の対象としての、虚構、その質的な差異にこだわりたい

と書いている。しかし、先日の僕の「なんでジャンヌ像は微乳なのか」でも触れたように、画像・彫像としての「ジャンヌ」はバリバリフィクションの賜物である。金髪ショートカットの美少女てーのは「素朴な史実」ではないのである。この際今の日本(およびニッポソ)のヲタク好みではない「微乳」は問題の外におくとしても、である。また、画像・彫像という意味ではない「ジャンヌ像」においても、かるーく「史実」はシカトされる。そもそもよくジャンヌの説明として「救国の(美)少女」ってのもかなりフィクショナルなもんである。ジャンヌの参加した、あの戦争は近代的な意味での「国家間」の戦争ではなく、王位継承権を争う身内の争いであり、強いて日本に例をとるなら「持明院統大覚寺統の争い」と尾張や美濃の覇権争いのミクスチャーのようなもんである。だもんだから、「戴冠」という当初の目的を達成してかなり気がすんだシャルル7世たちが、さらに果敢に進撃を主張するジャンヌをもてあまして、その結果ジャンヌが虜囚となることがあまりクローズアップされないのである。まあ斉藤環自身が同じ本の「海外の戦闘美少女」でベッソンの上記2作品を上げて、『フィフスエレメント』を「そのたたずまいは戦闘美少女もののそれにきわめて近い」とし

ベッソンが最新作『ジャンヌ・ダルク』に至る道のりは、戦闘美少女という一つのテーマに貫かれていたことがよく分かる

と書いているんだけど。
ベッソン映画のヒロイン、アンヌ・パリローナタリー・ポートマンミラ・ジョヴォヴィッチ(プロデュース作の広末涼子も含めて)が巨乳じゃないのがジャンヌ・ダルク像が影響されているかどーかはわからん


じゃあ、ジャンヌがバッリバッリの戦闘美少女かというと、個人的にはそうじゃないように思える。実際に戦場においてのジャンヌは剣や槍で敵を攻撃したことがないとされており、彼女の役割は味方を鼓舞する、相手をびびらせる、祈りを捧げることであり、RPGだったら「支援キャラ」なわけで、その姿は、『別冊宝島349 空想美少女読本』で白石ひとしが思いいれたっぷりにこう記した

エアリスは慈愛の人である。主に回復系の技を司り、戦いに傷ついた仲間を癒す。戦いに巻き込まれる前は、スラムの街頭で花を売り、日々の暮らしに疲れた街の人びとに、一時の安らぎを与えていた。そして、後には、星の命を救うという、自らに与えられた崇高な使命に殉じたことになる

エアリス・ゲインズブールが一番近いのではないかと思う。苗字がフランス系であることだけでなく、花売り娘というのはジャンヌの系譜といっていい『ラ・セーヌの星』の影響と思われ、さらに究極リミット技の名が「大いなる福音」なんというキリスト教風味満載な点も加えていいと思う。それに、フランス軍がギュイエンヌ地方を奪回し、百年戦争終了する=ミッションがオールクリアするのがどちらも死後である点も同様である。この際ジャンヌが自ら進んで戦いに赴き「巻き込まれて」ないだろうという突っ込みはなしである。またエアリスのおっぱいがティファに比べてさほど強調されてない点はあんまし関係ない。


・・・なんや、これ?めっちゃくちゃ「戦闘美少女」やんか!


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