「ヘン」な、でも圧倒的なリアリティ

それにしても、ここ一ヶ月というのは生まれていちばん小説を読んでるんじゃないか、というくらい読んでるような気がする。まあ、単に僕があんまり小説を読む人じゃなかっただけなんだけで、大学の時にもっと本を読んでいた時期はあるけど、その時も小説はそんなに読んでなかったもんだから、ってことに過ぎないんだけども。
買ってるんだったら、一生で最も買ってることは確かである。でも、その主力の赤川次郎片岡義男鎌田敏夫、つかこうへいはちっとも読んでないのに。


んで、今読んでるのが


愛を乞うひと (角川文庫)

原田美枝子が写ってるんで、椣平ルールでいう「美女ジャケ」である。でも、これほかのジャケがあるかどうか未確認なんで「映画ジャケ」認定していいものかどうか怪しいのだけど、10円だったんで買った(いや、ほんと今ままで105円や50円で何回も見たけどスルーしてきたもんだ)んである。


買ってきて、チラシやシオリ入ってないかなぁとパラパラしてた(普段は買う前にする)ら、北上次郎の解説の頁で手が止まって

下田治美『愛を乞うひと』は度肝を抜く小説である。まったく、こんな小説、みたことない。

から始まる文章を2頁ほど読んだら、なんだか興味がわいてきたんで読むことにしたのである。
あと「治美」って名前にいろいろ「想い出」があるし。



いや、ほんと北上が言うとおりこの物語は「ヘン」である。ヒロイン照恵が行動が「ヘン」なんである。で、その「ヘン」な理由が語られる出すと、その「ヘン」に妙な説得力が出てくる。説得力の源は彼女の少女時代の凄まじい悲惨な体験である。多少「記憶」を捻じ曲げてしまっても仕方ないほどなのである。どうしても最近読んだ『鬼龍院花子の生涯』の松恵、『血と骨』の英姫と比べてしまうのは、単に僕の小説経験の少なさなんだと思うが、ま、しようがないと思うことにしながら読み進めてる。
そんで読み進める中で、いちばん「ヘン」だと思うのは、この「物語」ってば、「児童虐待」「民族(植民地支配)」「戦争」ともっと「大きな」器に盛っても良いようなもんなのに案外こじんまりあっさりして、ちっちゃな母と娘の絆の話となっている点であるような気がしてる。でも、そうだからこそのリアリティをともなって、全然しょぼくなってないのがまた不思議なのである。