笑顔というフィニッシュフォールド

でもって例のインタビューから

事務所に呼び出されて「ふざけるんじゃねぇ!」とか怒鳴られたんですけど、何かおかしいんですよ。壁にスケジュール表があって、そこに「どこかで街宣」とか書いてあるんですけど、ときどきね、「後楽園」って書いてあるんですよ。おかしいなあと思ったら、女子プロの試合の日なんだよね。話を聞いてみると、中村さんは右翼の中でも有名なおたくの人で
サブカルチャー世界遺産 (SPA!BOOKS)

てこって、それから『おたくの本 (別冊宝島 104)』とか『プロレスに捧げるバラード (別冊宝島 120)』へ繋がるんだけど、今日はそれを飛び越えて『別冊宝島EX 決定版女子プロレス読本』へ。
とにかく男の墓場プロ代表杉作J太郎による「俺が愛した天田麗文」はマジで泣ける。

俺は天田に惚れていた。もちろん、客席から声援を飛ばすのが関の山の関係にすぎなかったが、それでも心底惚れていたといっていい。天田を見ていると全身がほてるのがわかった。中学生の初恋のように胸が高鳴るのがわかった。切れ長の涼しげな目と、スレンダーなボディは俺の脳髄をとらえて放さなかった。天田の試合を見たあとは、すぐに電車に乗る気にはなれなかった。夜の静かなビル街を歩きながら前進のほてりを冷ましたものだ。

汐留の電流爆破マッチの際も俺の目はマットに炸裂する火薬ではなく、場外の天田に向いていた。天田は会場の外に停められたバスの屋根から試合を眺めていた。天田の髪が風になびいていた。時折見せる笑顔がたまらなく眩しく見えた。
どうすれば彼女は幸せになるのだろう。
あの頃はそんなことばかり考えていたような気がする。

「どうすれば彼女は幸せになるのだろう」というJさんの気持ちは大げさではない。彼女はそう人に思わせる女子プロレスラーだったのだ。
第2章「名勝負で読む女子プロレス」において唯一実際の試合ではなく、引退セレモニーをピックアップしてあるの田中幸彦さんの「最後の微笑は心の真剣勝負 天田麗文×コンバット豊田」をあわせて読むとそれが一層わかる。

笑顔というフィニッシュフォールド
天田を殴打した豊田は、なおも天田をにらみつけた。しかし、天田は笑顔を少しも崩さすに、落ちた花束を拾い上げた。そしてその微笑みを豊田に向けながら、そっと手を差し出したのである。
その瞬間、豊田の両目から涙があふれ出した。目頭を押さえる豊田。天田を殴りつけてまで抑えていた本心が、天田の笑顔によってあらわになった・・・
(略)
天田と豊田の心のぶつかりあいは笑顔というフィニッシュホールドで天田の心が勝利をおさめた。
(略)
プロレスは心の真剣勝負である、とかたくなに信じ、主張する僕にとって、天田麗文というレスラーの死に際―引退式はまさに珠玉の名勝負なのである。

この二人が天田麗文に過剰な思い入れをしている背景には一冊の本の影響がある。『大熱中、女子プロレス。』(二見書房 95)「あの人は現在・・・!?リングから消えた女子レスラーの行方」*1天田麗文の消息を紹介する際にも引き合いに出された

大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞した『プロレス少女伝説』を読み終わった後、「天田麗文のファイトだけは直視できなくなった」というファンの人はかなり多かったようだ

プロレス少女伝説 (文春文庫)

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である。*2
天田麗文こと孫麗雯(スン・リーウェン)は「中国残留孤児2世」で「文化大革命」に翻弄された一人である。彼女が日本にやって来て初めて「夢」を感じたのが女子プロレスで、その夢が一旦費えたあとの彼女は笑顔を失っていたようなのだ。そして、彼女はFMWでカンバックし、夢といっしょに笑顔も取り戻した。そんな笑顔が人を魅了しないわけが無い。
「プロレスは心の真剣勝負」・・・名言だと思う。
(参考 http://asikapon.hp.infoseek.co.jp/amada.htm 天田麗文、工藤めぐみvs里美和、森松由紀

61年デビュー

女子プロレス読本』からもういっこ。
「我が懐かしきジャパン女子プロレスの日々」夢月亭清麿((師匠のブログhttp://blogs.yahoo.co.jp/kiyomarohitori/folder/976069.htmlも暖かい)の〆の部分。

風間ルミ神取忍ハーレー斉藤ダイナマイト関西尾崎魔弓、プラム麻里子、イーグル沢井キューティ鈴木、彼女たちはジャパンの旗揚げから、JWP、LLPWに分かれた今日までレスラーを続けている。良くも悪くもジャパンとはこの八人の歴史でもある。
全女的にいえば61年組であるが、全女には61年組は8人も残ってない。

ちなみにその61年組とは

(『全女がイチバーン!』による表記・掲載順)
また天田である。それにしてもこの人たち両方ともしぶとい。
(YouTubeに「チコさん見ててくれましたか」同窓会マッチがあるかと思ったんだけどなかった)

全く関係ないけど

表紙の北斗vsくどめを見て

東京ゾンビ [DVD]

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はやはりロメロスペシャルを描く必要があったと改めて思う。

*1:この章の佐藤ちのの部分は笑える。たぶんこいつ『美少女プロレス』と『デビルマソ』が繋がってないはず

*2:こんな名著の書影が出ないなんて、嘆かわしいことだ。