完全に忘れていた、栄えある「第1回」

忘れていたといえば『危ない1号』に触れるのも忘れていたようだ。例えば


危ない1号 (第2巻)

危ない1号 (第2巻)

『危ない1号第2巻 特集キ印良品』は村崎百郎・黒田一郎両方の名義で、デルモンテ平山(平山夢明)、宇川直宏青山正明吉田豪湯浅学クーロン黒沢柳下毅一郎などなどの錚々たるメンツとともに参加しているわけで、「因果鉄道」のガイドとしてマストアイテムなのは間違いない。
この巻でコミックスを主に担当にしているのが米沢嘉博なのだが、米沢は同じ年に創刊された同様な趣を持った(かのブームに乗っかった?)雑誌


警告:アダルトコンテンツ

にも寄稿していて、それが極めて非常に重要な原稿であった。今回『キ印良品』を本棚から持ってくる時まで買ったことさえすっかり忘れていたこの号は

戦後エロマンガ史

戦後エロマンガ史

にまとめられた「エロマンガ史」の最初の最初が掲載されているのである。『エロマンガ史』には

かねてよりやってみたかったエロマンガの歴史に、やっと取りかかかる事になった。マンガは、というより大衆文化そのものが、エロ、グロ、ナンセンスを一つ伸樹に、移ろい易い大衆をパトロンにつけたのではなかったのか

で始まる「まえがき」にあたる部分は収められていないほか、

だが当時二十歳前後だった手塚治虫は、例えば「怪傑<ママ>黄金バット」では、トップレスの女性キャラを登場させ、「ロストワールド」上半身裸の男女(ケン一とアヤメ)のカッを組ませ、新世界のアダムとイブについて語り、「拳銃天使」ではマンガでは初のキスシーンを展開した。このキスシーンは当時「有害」マンガ問題を巻き起こした。
『BAD TASTE』63頁

だが、当時十代であった手塚治虫は、昭和二二年から二三年にかけて描き下ろしのマンガ単行本の中に、たぶんに自らの中の性的妄想のほとばしりを自覚した上で、エロティックな描写を残している。「怪盗黄金バット」に水着コスチュームの女性キャラ、「ジャングル魔境」にトップレス(乳首まで描かれている)の女王を登場させ、「ロストワールド」では上半身裸の男女(ケン一とあやめ)の肩を組ませて、新世界のアダムとイブについて語る。アメリカ映画のムードそのままの西部劇「拳銃天使」では児童マンガ初のキス・シーンを展開し、「有害」コミック問題さえ起こしてる。
『戦後エロマンガ史』9頁

などのようにかなり稿を改め、不正確な部分を修正するとともに、手塚の心性にまで踏み込んだ論考となっている。また、単行本では「カストリ雑誌の種々相」といかにも論文ぽいものが、雑誌の方では「解放された欲望」とモロな小見出しとなっているのが面白い。それから単行本の図案と文章がキッチリ分けられた構成より、雑誌の方の文と図がごちゃごちゃっとしているレイアウトのほうが、なんだかエロいもんに触れているような気がするのは僕だけだろうか。


この雑誌を買った当時はエロマンガにちっとも興味がなかった(いまだってエロマンガ自体はほとんど読んでいないけど)のに、捨てたり売ったりしなければこんな愉しみに出会えることもあるのだなぁと思う。