エビスでむすぶ「悪趣味/バッドテイスト
『村崎本』での宇川直宏のインタビュー、ここで引用したところは、次のように続く。
―でも、村崎さんはすごくインテリな方ですよね。だけど、村崎さんの悪趣味と宇川さんが言うバッドテイストというのは大きく異なるもんだと思いますが。
宇川 それは「GON!」と秋田昌美さんの『スカム・カルチャー』(水平社)の違いでもあるんですよ
この二つには明らかに断裂があるかのようだけど、一人の男というか物の怪を挟むとそこにはしっかり糸が見えるのである。
このインタビュー中にざっとまとめられている「悪趣味本」(175頁)にもれているものに『別冊宝島250 トンデモ悪趣味の本』がある。『宝島30』連載を洋泉社で発行したベストセラーの名前を有効利用した便乗本なのだが、そのトップを飾っているのが根本敬による蛭子能収インタビュー「茶の間のピンヘッドは無意識の殺人者!?」にその糸がはっきり存在しているのだ。ここで根本はふって湧いたような蛭子大人気を
で、五体満足で放送コードにひっかからない、身体的にはどこも不自由のないフリークに、こういう類に少々餓えていた全国の茶の間は、はじめ見世物小屋を覗くような好奇な目で見た、が、やがて(略)テレビの前の大多数の人が「気持ち悪い」というより「いい人そう」とおもうようになった
と、その「畸形性」に見た。ここで蛭子を登場させるのは、上記の「悪趣味/バッドテイスト」の分類でいえばいかにも前者のように思えるのだが、実はそこに収録されている、蛭子能収の血筋を念視したマンガ「きっとこうに決まってる!蛭子家の謎を解く」の2コマ目の
妙な人はどれも三才まで歩けず
というナレーションは、明らかに『古事記』のイザナギ・イザナミの子「水蛭子」のことであり、おそらくこれは『夜想10 怪物・畸型』掲載の秋田昌美「畸と聖性」にインスパイアされているのと思える。ここで秋田はこの「エビス」を
古語では異俗人の総称であり、蝦夷、俘囚人、海辺人等々、先住異俗民の神又は先住土着の地主神とされている。「神代史上行衛不明の神」(吉田貞吉)といわれる蛭子がエビスと習合したという事実も神々の歴史と任の原人なるものの起源に想いをはせる時に興味深いものがある
と書いているのだが、そのマンガも、蛭子家が海辺人の中で神格化される(原文:その筋の神様としてまつりあげられ)過程が描かれている。
ここでふとここ数日の流れからいうと、『トンデモ悪趣味の本』には村崎百郎は執筆してないし*1、『怪物・畸型』はまだペヨトルに入る前やんか、ということに気づいた人もいるかもしれない。でも、である。例の『SVエヴァ特集号』で黒田一郎が「全部読もう」と書いた学研「ブックスエソテリカシリーズ『古事記の本』でも「蛭子」にスポットを当てた頁ば存在するけんよかとですよ。デヘヘ。
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*1:初登場は『281 隣のサイコさん』