Left It Alone…ハルキ版『キャバレー』のチグハグ

この前バンドワゴンでおまけしてもらった

『キャバレー』(1986)のVHS。
ジャケのデザインが文庫表紙*1

パンフレット

とキッチリ統一されていて、角川春樹事務所10周年記念作品としての意気込みを感じる。

映画はコートにソフト帽の男がジュークボックス前のチンピラ(演じるは竹内力)を射殺し去っていくモノクロ場面で始まる(上記のジャケ写の下の部分)。ノアール風味のペラペラ感が妙に様になってる。ふと『エンジェルハート』を思いうかべたが、あれはこれの1年後の公開である。ミッキー・ロークつながりでいえば『シン・シティ』が頭に浮かぶ若者がいてもおかしくないような非常に締まったオープニングにな・・・りそうなのに、過剰な土砂降りの雨(NK特機気合入れ過ぎ!)にどーしてもチグハグな感じをうけてしまう。

栗本薫の原作では真田広之のほうがぴったりのような鼻っ柱が強い八代俊一を野村宏伸にあわせて上手い具合にヘタレ味を加えてあり、初主演(アフレコ含めて三作目)の緊張が思いっきりでてる、おどおども周りの役者さんとの対比でうまく収まってい・・・たのに原田知世が登場し、二人芝居になるとも〜ダメ。この映画のモチーフである「JAZZ」の核心を語るシーンの一つ(あの猪木と生活を共にできた倍賞美津子は流石である)なのだが、二人ともまったくセリフが血肉化してないもんだから、BSオリジナルドラマを見てるようだ。
ハルキはパンフで

角川映画10年の歴史の中でも、時代の生き物である映画は、様々に変化してきた。アニメやアイドル映画の全盛期*2もあったが今も違う。まして、野村宏伸は無名に等しい。とすれば、今度の映画は、アイドル性よりも、本来、映画が持つ仕掛けであり、エネルギーであり、大人のロマンというものを表現しようと思った

と語っているんだから、ここはどーにかしてほしかった。もいっこのシーンの賠償美津子(流石猪木と結婚してた女)とのやりとりが素晴らしいだけに非常に惜しい・・・といいたいところだけど、パンフの裏

がチョコレートの広告じゃね。第一、多少映画の質をそこなってもこの時の二枚看板は外せないしね。

オールスターキャストダスト

この映画の主な舞台であるキャバレーなのだが、原作では「タヒチ」、決定稿では「ハバナ・ムーン」だったところを「スターダスト」に変更している。
スターダストといえば常盤貴子の入籍やら沢尻エリカの契約解除やらで何かと話題の事務所の名前として有名なのだが、所属タレントの一人山口もえはとある番組で「ウチの事務所は「スター」と「ダスト」に分かれてるんです」ってな面白い発言をしていた。
そういえばこの映画って屑とは行かないまでも非常にB面臭がしている気がする。角川初出演の三原じゅん子*3はおいといて、私の記憶が確かなら鹿賀丈史は『野獣死すべし』はともかく『麻雀放浪記』は典子さんミステリーと併映だし、『悪霊島』は石坂浩司のB面だ。ちなみに名前が似ている鹿内孝はフジTV版佐久間である(新井康弘はたぶんこの番組の縁)。倍賞美津子にしたって角川映画出演は『愛情物語』と『友よ、静かに瞑れ』である(映画版『のんちゃんのり弁』に出てるのには遠い縁を感じる)。
角川オールスターキャストというには、『野性の証明』一作の高倉健はしようがないとして

  

  

  

  
が出ていないのである。
さらに不思議なことにしっかり画面には登場し、パンフにも姿がその姿がおさめられている

渡瀬恒彦(『セーラー服と機関銃』『化石の荒野』『愛情の物語』)の名前がEDにもパンフ載ってないのである。いろいろな大人の事情でこうなんたんだろうけど、不思議なことに『角川映画大全集』のゲスト出演者リストには載ってたりするのである。


なんだかこのあたりもホントチグハグしてる。

ところで典子さんは


今回の典子さんは歌うシーンが2つあるだけでセリフはなし。一応衣装は黒と赤の2番用意してあるけど、歌う歌は同じ「Side By Side」。どこに出てんだかわかんない津田ゆかりや高柳良一に比べればましとはいえるけど、併映の『彼のオートバイ彼女の島』も含めて、この前後に『早春物語』『黒いドレスの女』と主演作に挟まれてる知世ちゃんとの扱いの差は歴然*4である。まあ『結婚案内ミステリー』の配収が『早春物語』の(季節の考慮しても)約10分の1となると仕方がない。
それにしてもである。パンフの出演者プロフィールにしても

角川時代劇『伊賀忍法帖』でデビュー。彼女を一躍有名にしたのは、社会問題として取り上げられ各界に衝撃を与えた『積み木くずし』の熱演である。あの大人しい典子が・・・と、みんなが驚嘆した体当たり演技であった。歌手としても評価も高く、今回も『サイド・バイ・サイド』で。その実力ぶりを聴かせてくれる

で、ミステリー三部作に一切触れてないのである。隣に並んでる古尾谷雅人の場合も出演作として『スロブギ』と『悪霊島』は載っているけど『いつか誰かが殺される』は載ってないのである。そのくせ、もう一人のシンガーとして登場するのが『いつ誰』の出演者である白竜であったり、宏伸とじゅん子の濡れ場で流れんのが『いつ誰』で典子さんが歌った「サマータイム」だったりと、はっきりいって"嫌がらせ"のレベルである。パンフの巻末広告に歌手渡辺典子の最新シングル「ここちE」(ワコールイメージソング)

を載っけてくれたくらいではちゃらにできるもんではない。
そもそも典子さん演じるミドリって原作では店一番のブスのくせに主人公に色目を使うなんていう女なんである。別にこの名前に必然性があるわけでもないから映画では別の名前に変えればいいことなんで、誰がどう考えても典子さんにたいするハルキの悪意の存在が透けてしまってるとしか言いようがないのである。
たーだ、これは『伊賀忍法帖』のオーディションのころから狙っていた原田貴和子が映画に出てくれたんで、典子さんの存在なんて「なかった」ことにしてもいいってことで妙に首尾一貫しててるんで、別にチグハグではないんである。

*1:別ジャケあり

*2:この後のアニメの隆盛を読めなかったのもこの人の没落の原因の一つ。その辺りは歴彦に敵わない。

*3:角川映画ジャケは『野麦峠』あり

*4:『恋人たちの季節』は降板したんだけど