ペ・ドゥナはありとあらゆるせつないを背負って

映画『空気人形』の原作の英題は「The Pneumatic Figure of a Girl」となっていて、日本語(においての漢字)では「空気人形」でなんとなく伝わるSEX(性別)を補っています。しかし、映画の方の英題は『Air Doll』で、ひとまずペ・ドゥナ主演だからわかんだろうってことなんでしょうか。
原作者業田良家(福岡県甘木出身)は、その作品で心を持つこととは「せつない」ことだと言い切り、せつなさを知った空気人形の身体に街ですれ違ういろんな女性の「せつない」を吸い込ませました。その後捨てられた空気人形は潰えていきながらも「青空を美しい」と思う心を失いませんでした。


映画では、監督の是枝裕和はさらに「せつない」の幅(年齢・境遇・理由etc)を拡げて、空気人形に託しました。それもせつなさいっこのいっこの重さが原作の比ではありません。富司純子余貴美子、星野真理、奈良木未羽その他のせつなさで一杯の吐息をその一身で受け止めろといってるんです。さらに、監督は空気人形にいろんな男のいらだちを受け止めさようとしました。やはりそのいっこいっこがとてつもなく重いそれらを。そう、この映画の主役はあらゆる人びとの「personality crisis」を背負わせなければならない。

しかもなお自分も「せつない」を覚えそれに苦しまなければならないんです。そして最後まで「透きとおって」ないといけない。どんなに汚れようと塗れようとどこまでも澄んでないといけない。


はっきり云ってこれは無理難題にほかなりません。こんなことペ・ドゥナ以外の誰がなしえたんでしょう*1。まあ、そもそも『復讐者に憐れみを』のおっぱいも「樹脂」でできとるようなカタさでしたし、『グエムル』のジャージも今回のメイド服に続くコスプレだったわけです。『リンダ×3』のセーラー服は云うまでもないことです。


『リンダ×3』といえば、個人的にペ・ドゥナに歌ってほしかった曲に

というのがありましたが、今回そんな願いがかなったような気がしました。そして、あの時の星野真理の言葉を僕は断固支持します。

空気人形みたいに美しくなりたーい

しかしながら是枝裕和ペ・ドゥナはそれを見事にシャシンに写してしまったんですから完敗ですね。

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*1:僕の錯角でしょうか、画面に

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が一瞬映ったような気がしました。それを僕は勝手に上野樹里蒼井優への監督の"ここまで来いよ!"という叱咤激励と受け止めました。たぶん僕が見た幻覚でしょう