相手をどう呼ぶかという些細で重要な問題。

『年上のOL』。とにかく冒頭の「大人の女の人から"きみ"と呼ばれたのは初めてだ」に始まり、とにかく吉行由美は相手との距離の儚さを「目の前のひとをどう呼ぶのか」を軸に実に丹念に描いていく。そして、その呼称の使い方が実に絶妙なのである。
例えば、花澤レモンは学校では男のことを名字くんづけ、初エッチの際に名前呼び捨て、ことが終わると名字くんづけに戻る。が、しばらくたって彼女である自分の立場が確定すると「名前呼び捨て」となっていた。
あと、オーナーとの不倫場面の「こんなときまでオーナーと呼ぶのか」という台詞も効いている。
これは僕らの日常でもよくある話だ。というか僕らはこういうことを当たり前に行いながら、なんとか人との危うい距離感を測ってる。そう、当たり前に。
しかし、こんななんてことない「当たり前」を何気なくフィルムに焼き付けていくことは非常にムツカシイことだ。
それは案外なんてことのない良い曲をつくることがメチャクチャ困難なのに似てる。ニック・ロウの『素敵な愛の放浪者』収録の究極なんてことのなさな名曲「恋する二人」なんかがそう。

レイバー・オブ・ラスト

レイバー・オブ・ラスト

等身大の登場人物がお互いをどう感じ、どう呼び合うかで揺れる心を見事に表現した『年上のOL 悩ましい舌使い』は、その青春への眼差しの確かさは『パッチギ』『逆境ナイン』にも決して劣ってない。
とにかく、先週見たヤツでは妙に持ち上げられ僕に居心地の悪さを感じさせた谷川彩が今とっても愛おしい。