彼のオートバイより彼女の歌

大林宜彦監督作品『彼のオートバイ、彼女の島』(86)は、ハルキ監督の『キャバレー』の併映作(チラシ、前売り、シオリを見る限りでは

はっきり言ってB面)である。
原作は片岡義男のいわゆる青春小説。レーサーを主人公の映画でありながら2輪レースの魅力を伝えることができなかったハルキ映画は、この映画においても原作に溢れている「オートバイ愛」をげっそり削り、その代わりに「歌」の比重をぐっと上げるという策略に出た模様。原作の主人公であるコウを演じる竹内力より原田貴和子、渡辺典子が前にクレジットされていることからも明らかである。
だが、その目論見はものの見事に空振りしてる。だから、彼女たちが歌うシーンはものすごーく寒い。加えて、歌えるスナック「道草」に集ってる「音大生」どもがものすごーくダサい(貴和子の歌うシーンで左に座っている男のリズムとってる左手は非常にキモい)。当たり前だ。脚本の関本郁夫はともかく、音楽の宮崎尚志、主題歌の作詞阿久悠なんて面子で、ドアーズの「You Make Me Real」で始まる小説の世界観を歌で表すなんて不可能なんである。いや、ほんと『青春デンデケデケデケ』と同じ監督の作品とは思えん。
では、その道草のシーンがものすごくつまらないかというとそうでもなく。竹内力の新旧彼女として、貴和子と典子さんが同じ席につくところは独特な緊張感が漂っている。典子さんからしてみれば、貴和子は自分を主役の座から投げ飛ばした女というだけでなく、貴和子が知世ちゃんのオーディションの付き添いで状況した際に、ハルキの要請にしたがい女優になること承諾しておけば、そもそも『伊賀忍法帖』も赤川・典子三部作も無かったかもしなかったわけで・・・(真田広之の相手にはちょっとサイズがあるかも、だが)。まあ、腹の底で「この長崎女、いまごろのこのこ女優になりたいとか言い出しやがって」と呪詛を吐いていてもおかしくなかったはずである。
そんでまた、その貴和子が、そのオーディションの時だったら蒼井優なみの透明感があったと思われるのだが(写真でそれは確認できる)、4年間で一気に寺島しのぶ(今の)に変化しておって、女優になるのを断った理由のバレエの所作がちょこちょこ顔を出すのを含めて、いろいろげんなりしてくる―温泉のシーンのピンコ立ちの説得力のなさったら、もうである。
それから典子さんの往生際の悪さもあれだしなぁ。それが『恋人たちの季節』降板に繋がるんだろうけど)。


近所のツタヤじゃ貸し出し中のことが多いのが改めて不思議に思える作品である。

彼のオートバイ、彼女の島 [DVD]

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