四方田が棄てたズベ公アンドロイド

四方田犬彦志穂美悦子 必殺・追跡・13階段」(『戦う女たち――日本映画の女性アクション』作品社)には一見不可解としか言いようのない箇所がある。それは彼女の来歴においてアレがなかったことにされてることだ。そして、それは四方田の苦渋の選択だったのではないかと推測される節があり、例えば

空色はピンクとともに三作*1のタイトルバックの背景でもあって、この時期の志穂美悦子の雰囲気を決定するにあたって基調となる色彩である(その前年に爆発的な人気を誇っていた天地真理が、同じ二色に基づくイメージ作りをしていたことに留意)
(同書 P234 l4〜)

にそれが見て取れる。「空色とピンク」とはまさに

ソフビ魂 ビジンダー

ソフビ魂 ビジンダー

ビジンダーの配色であり、『キカイダー01』でのビジンダーの人間態の呼称がまさに「マリ」であるからだ。


東映アクション」を語る際に、非常に重要な「等身大ヒーロー」番組は外せないとは思うのだが、あえてここで四方田がそのことを切り棄てなければならかったのは何故なんだろうか。それは決してマリの服装が、四方田が「女必殺拳」での

志穂美悦子の女性としての身体が強調されることは一度もない。彼女は常に活動しやすいようにズボンを着用し、スカート姿で現れない

と書いたことに反するといった単純な理由ではないはずである。

理由は二つ考えられる。ひとつめは「そのこと」に触れた場合、その重要度を理解しているからこそ、独立した章を設けならなければならなくなるはずである。その際にその章を任せられる適当な人材が四方田に思いつかなかったのではないだろうか。特撮プロパーな書き手に依頼するとどうしても「浮く」可能性がある。ならば「30話 悪魔? 天使? ビジンダー出現」の脚本を担当した長坂秀佳を理由に真魚八重子に「服従回路」を埋め込み苦行を強いるという手もあっただろうが、森永奈緒美一人とっても検証作業の量は膨大になっただろうから、流石にそれを強いるのには「良心回路」が働いたのだろう。


もうひとつは「マンガ版」(原作とは言わない)の存在ではないだろうか。

人造人間キカイダー 6 (サンデー・コミックス)

人造人間キカイダー 6 (サンデー・コミックス)

この時期の石森章太郎永井豪のタイアップ作のアニメや実写版とマンガ版は、全く別物である場合が多いので全く無視してかまわないのかもしれないが、ハカイダービジンダーにはなった台詞

ウ〜〜〜〜
おまえさん
ズベ公だな

からもわかるとおり、この作品の女性ロボットは「東映ピンキー・バイオレンス」風味に溢れており(なんとリエ子は人間態のまま乳首から怪光線を出す!)、これはこれで一旦触れると『009ノ1』などへも対象が広がっていって、「マンガ地獄変」や「マンガ秘宝」のテイストに近づいた可能性がないでもないような気がする。と同時に四方田が語る志穂美悦子像=中性性と齟齬が生じてしまうのである。


このようにビジンダー・マリは一冊の書籍を根底から揺さぶりかねないほどの強烈な存在だったのである。やはり四方田がビジンダー・マリを外した選択は非常に賢いものだったのだ。

*1:僕注:「女必殺拳」シリーズのこと