蛭子という怪物・畸型

蛭子能収がマンガ家だということを忘れているどころか、そもそも知らない人も多くなったかもしれない。知ってはいても実際に単行本を読んだ人の数はそう多くはないはず。以前ほどはテレビに出なくなったから名前自体知らない人や忘れちゃった人も増えたかも。かくいう僕もひっさしぶりに蛭子さんの本を買った。

笑う悪魔の黙示録―蛭子能収選集 The mangagraphy (Mag comics)

笑う悪魔の黙示録―蛭子能収選集 The mangagraphy (Mag comics)

ってな作品集。
なんだか出版社がマガジンハウスってのも笑っちゃうんだけど、発行が1990年ってこって、あの会社も今よりはずっと挑発的だったんでそんなもんかなとも思う。
それにしてもタイトルの「笑う悪魔」ってのがすごい。世間が蛭子さんを「人畜無害な人」と消費している最中に「悪魔」だと触れて回った根本敬の本が出されるずっと前にこんなタイトルをつけたヤツは偉いなぁと心底思う。
それから年度ごとに

しかし自由とはいってもエロ雑誌ということを意識しないで描くことは読者にも悪いと思うので芸術プラスエロなマンガを心掛けて描いていました
(1982)

だの

社会には精神病の人も障害者の人も、また悪人も善人もいていて、それらを全て否定するのではなく、一緒に住んでいるんだという意識で私はいきたいと思ってます
(1986)

だのとマジメに文章を寄せているのがおかしい。
そんな中でも

ビックリハウス」とか「宝島」からマンガの注文があり、マイナー系のマンガ家が少しずつ大きな企業の雑誌に取り上げられるようになって来ました
(1983)

ってのの「大きな出版社」ではなく「大きな企業」ってのがしみじみイイ味出してると思う。


そんでもって蛭子ってことで思い出すのが『夜想10 怪物・畸型』の松田修「不具の構造・畸型の美学」なんだけど、名前も容貌もフリーキーなこの人を一瞬だとは「人畜無害」として消費していたあのろのこの国はかなりビョーキだったんだなぁ。


なぜなにキーワード図鑑 (新潮文庫)

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