アバンチュールはルックスしだい

ひっさしぶりにいったとなり町の古本屋で

この作品が「地底国の怪人」のリメイクである、ってなことはどっかで聞きかじってたのに読むのは今回初めて(『地底国の怪人』も未読)ってなもん。
いやー面白かった。どのくらいか面白いかというと浦沢直樹だったら6巻ほどかかるくらい。

まず目を引くのがタイトルの「アバンチュール21」。「21」の方は単純に21世紀のことなんだろうけど、「アバンチュール」の方がけっこう不可解というか不思議。『別冊太陽 手塚治虫マンガ大全』ではこのマンガのこと「冒険SF」と紹介しているんだけど、どうして「冒険」なのに「アバンチュール」なんだ?

アバンチュールとアドベンチャー

アバンチュールという単語は「はてなキーワード」では

aventure
フランス語で冒険の意味。
カタカナ語としては特に不倫などの恋の冒険の意味で使用される。

と書いてあって、今日図書館でくった国語辞典でも似たよーなもんだった。んで、「クラウン仏語辞典」には

(英語 adventure affair)

  1. 意外な出来事
  2. 恋愛
  3. 冒険

って書いてあるんだけど、1の例文「roman d'aventure」が冒険小説ってなってるんで、1と3は似たようなもんなんで、カタカナ語としてのアバンチュールは2だけの意味が一人歩きしたってことなんだろう。そんで小学館の「日本国語大辞典」では、用例が三つ載ってて、森鴎外「青年」(1910-11)は1と2をあわせたような感じでつかわれているんだけど、里見とん「大道無門」(1926)と芝木好子「面影」(1969)はずばり2限定なんで、このマンガが発表された1970年には、2の意味限定のカタカナ語としてほぼ定着してたんだと思う。

「少年少女新聞」のほとんど読者にとっては単なる目新しい言葉なんだろうけど、一部(じゃないかもしれんけど)のおませさんは2の意味をしってたかもしれんので、たぶん作者手塚治虫としては2の意味を含ませた3として使ったんだと思う。単に「冒険」という意味でよかったんなら、英語の「アドベンチャー」ですんでたはずなんで。

耳「男」とアバンチュール

主人公イサミのペットの兎ミミが、フラケンシュタイン博士の子孫の科学者の手による改造手術によって耳男になるんだけど。その耳男初登場シーンが

なんだけど、その次のコマでセリフで

(その前々コマでのイサミの「ミミを生かしたまま返せ」というセリフに対して)
きみの知っている/ウサギのミミは
もうおらんと/いっとる

これは/ミミを改造して
人間化した/耳男だ

と説明されるんだけど、「耳男」ってあきらかに男子の名前で呼ばれてない限りこの子が「♂」だとは確信できんよね。まあズボンが男子を表しているんだろうけど、パッと見「♀」に見えないこともない。でも、よーく顔を見ると「♀」ではないことが分かる。それはまつ毛が女の子女の子してない。これは表紙の場合もっとはっきりしていて、

おんなじうさぎでも「W3」のボッコ隊長のように明らかに「♀」の場合にはまつ毛の書き方が違っていて、彼女の場合は目の横にきっちりまつ毛が描いてあるのである。『手塚治虫キャラクター図鑑6』「「動物」にみる手塚治虫的かわいらしさとエロチズムの研究」でも、先生本人のことば「こども、ことに幼児にとって、中世的な魅力を表すのにまつ毛はよい小道具になる。中世的というよりやや女性的といった方がよい」を引いてまつげをそのかわいらしさのポイントとしてしてるんだけど、その意味では(特に表紙の)耳男のそれはアトム、写楽、レオよりも「女性的」ではないまつ毛であるといっても良いと思う。ゆえに耳男は「♂」だと断定してもいいはずである。ちなみに耳男が一人称として「ボク」を使うことに関しては、和登さんという例があるんで性別決定の要因にはならない。

1970年という年は手塚にとって「アポロの歌」「やけっぱちのマリア」*1「ママァちゃん」という作品群を通して、少年少女に「セックス/ジェンダー」「リビドー」「エロス」をいかにして伝えるかと真剣に対峙していた時期である。少年と少年のアバンチュール=恋愛を描いていたとしてもおかしくないのである。だから「地底国の怪人」ではベッドで息絶えた耳男は今回愛する人の腕の中で逝ってしまうのだ。

大泉サロンは「少年少女新聞」を定期購読してたに違いない。

参考文献

手塚治虫全史―その素顔と業績

手塚治虫全史―その素顔と業績

戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)

戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)

※シュガー関係なくなっちゃった。

※※フツーに読めば少年同士の熱き友情なのかもしれんが、隣の部屋には¥5927って金額見ただけでぽわっとなっちゃう人がいるんで

家庭教師ヒットマンREBORN! 25 (ジャンプコミックス)

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*1:マリアがオッパイ丸出しで仁義切ってるのは鈴木則文東映PVの影響なんだろうか・・・「女番長」シリーズの方が後だった。