角川映画の黄昏と原田知世の旅立ち

従来、日本では、本当の意味でのハードボイルドは成立しない、と言われていた。それはウェットな国民性を持つ日本の作家には、欧米ハードボイルドの乾いた、それでいて根底に熱いものが流れる感性を、表現する術が無かったからである。
しかし、80年代後半に至って、ようやく正統派ハードボイルドを表現できる作家が現れた。北方謙三崔洋一である。

この文章を読んで、目を疑った。
だって、大薮春彦村川透の『野獣死すべし』『蘇る金狼』(まあ松田優作主演ってのがデカイけど)はどうしたんだ、って普通思うわけで・・・しかも、この文章が『黒いドレスの女』の劇場用パンフに載った角川春樹のものだからなおさらである。
ハルキがこの北方・崔コンビに手応えをつかんだのが、その一昨年(85年)に製作公開した『友よ、静かに瞑れ』だったというのだが、角川裏面PGシリーズ(併映は赤川・典子さんお譲ちゃまミステリー『結婚案内ミステリー』)でたった1億ちょっとの配収でコケた作品に「手応え」ってのがこの頃のハルキの立ち位置を示してるような気がする。84年には15億を稼ぎ作品的にも評価を得た『Wの悲劇』(併映は『天国に一番近い島』)やPGシリーズの第2弾で配収はともかく評論家に絶賛された『麻雀放浪記』(併映は『いつか誰かが殺される』)を作っていた人間の言葉とは思えないのである。

てこって

である。帯はこんなん

澤井信一郎監督/野村宏伸河合美智子主演の『恋人たちの時刻』との公開告知である。


これだけを見ると『角川映画大全集』の表紙を飾った2枚看板の主演作2本立ての華々しさを感じるんだけど、ご存知の通り『恋人たちの時刻』は渡辺典子主演で予定され、文庫の表紙にもなっときながら降板っていう悲しい作品なんである。


しかし、この表紙カバーは前作『早春物語』まであったショートカットの呪縛を断ち切った、原田知世の最も美しい映画ジャケであることは間違いない。また、パンフに掲載されてるスチール写真にも、それまであった「スキ」(ときおりトンデモないぶさいくな写真を撮られる)がなくなっている。これで心置きなくハルキの庇護から去る自信も芽生えたに違いない。次作の『私をスキーに連れてって』で完成し、今に至る女優・アーティスト原田知世の第一歩の記録なんではないだろうか。