異人たちの水道橋・マラン出身の女

病院の待合室で次の人を呼ぶ声「岡部さん、岡部広子さん」に、人目をさけるように診察や会計に向かう優香なんてもんを遭遇すると、ちょっと驚くと思う。それが「名倉満里奈」や「野口奈奈子」でも驚くはず。まあそんなとこには通わないのかもしんないけど。
じゃあ、デブラ・アン・ミセリだったら?どう?

『レスラー』でも心臓がイカレたランディの本当の名字が明らかになるのも病院だった。それは『ミリオン・ダラー・ベイビー』のマギーもそう、病院では普通芸名もリングネームも通用しないから。


そう、デブラ・ミセリは『レスラー』+『MDB』ってこって女子プロレスラー。アメプロファンにとっては彼女はアランドラ・ブレイズだろうが、僕にとってはメデゥーサである。
井田真木子の名著

プロレス少女伝説 (文春文庫)

プロレス少女伝説 (文春文庫)

によれば、彼女はミネソタ州で黒髪・黒い瞳のイタリア人の父とネイティブアメリカンの母の間で突然金髪で碧い瞳の一人娘として生まれる。母は全く社会性を欠いておりなおかつ彼女に虐待を加え、一生消えないような火傷や傷を身体に、そして心に負わした。7歳で両親は離婚。母親方に引き取られた彼女は掃除と洗濯以外に何もしない母親の変わりに料理もしなくてならず、9歳で既に芝生刈りのバイトを始める。彼女がミドルティーンになったころ父親は再婚。母親はそれまで父親のバースデイカードさえ破り捨てるほど、父と彼女が接触するのを避けていたのに、一転彼女を父親に押し付ける。継母と上手く関係が築けなかった彼女は自立を模索し始める。セレブがパーティで汚したヨットの清掃の会社を立ち上げる。その事業が上手くいきそうになったのが、事業を拡大するためには共同経営者との関係を気付かなければいけない。彼女の精神状態はそれに耐えられる状態ではなかった。そして、エンターテインメントの世界に足を踏み入れプロレスに出会うのである。
思わず涙が零れ落ちそうになる・・・といいたいとこだが、これかなりギミックやホラやなんやらかんやらが含まれているのだ。


そもそも彼女の出生地はイタリアのミラノ。ひとまず97年(『伝説』が出てから7年)の時点でそのギミックはとんでるようで。『レディゴン特別編集1997女子プロレススーパーカタログ』では「マラン」となってる。これたぶんミラノの英語表記Milanを写し間違えたんだろう。エリアAが日本で有名になって大分経ってたと思うんだけど。


そんで複雑な家庭環境で育ったんは本当のことようななんだけど、『伝説』で語られるような屈託みたいなもんとは無縁のようで、ロッシー小川の『やっぱり全女がイチバーン!』で、久しぶりの再会に挨拶もそこそこに

「また日本で写真集出したいわねぇ。何かいいアイディアない?」
「今、日本はね、ヘアー写真集ってのが当たり前になっているんだよ」
「え、ヘアー?どれだけ露出するのよ?」
「全部だよ。井上貴子だって、ヘアーじゃないけど、これだけ見せちゃったんだよ」
「(写真集を見ながら)そうねぇ…これだったら、やってもいいな。ヘアーだってOKだわ。ただし、アランドラの名前はダメ。これはWWFが商標登録してる名前だから。メデゥーサの名前だったら、いつでもOK!」

てなやりとりが披露されている。これ読むと事業が上手くいくためなら絶対そこらへんのオヤジの一人や二人うまーく転がしてそうだよなぁ、若いころから、なんて思ってしまう。


いや、ほんと神取忍天田麗文といっしょに、悲劇のヒロインに仕立て上げた井田真木子の構成力・筆力恐るべし。


※今日の画像は

の「第12戦 ビクトリーロード」のヒトコマなんだけど

これって雑誌掲載時及び
とは狼倫と脇形のセリフがいれかえてあって、浪倫側人(高田延彦ファン)がダイナマイト関西に、脇形恵(藤原喜明ファン)が神取忍に肩入れするというすっきりする修正がなされている。