SMELL LIKE A SEVENTEEN SPLIT

"It's better to burn out than to fade away.
(Kurt Cobainが自らの最期に引用した歌詞の一節)

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)

不遜にも前回の『ダブル』の読み易さにものわかりの良さのよう名物を感じて、なんだかこれって水嶋ヒロ北川景子の主演でTBSドラマ化できるんじゃないの?!なんて感想を抱いたものにとって、今作は読むのが怖かった。また日記での『東京デッドクルージング』ならぬ『東京アライブクルージング』がしみじみと良い文章だったことも、もしかしたら・・・を心から拭い去れなかった原因である。


だが、違った。深町秋生はやはり深町秋生だった。『言えない秘密』なんていう少女マンガみたいな映画(当然誉め言葉)に出てもアンソニー・ウォンがアンソー・ウォンだったのと同様かどうかはともかく、上記の前2作に比べてアクション場面のハデさは後退したものの、作者からにじみ出る憤りは勝るとも劣らない(たぶん『ダブル』には楽勝)ものである。


主人公の八神瑛子は美貌の辣腕刑事である。夫の不可解な死が、普通の女性警察官だった彼女を豹変させ、事件の真実(!)に向かってあらゆる手段を使って突き進ませることになった。彼女にとって捜査とは警察組織、そしてその背後に存在するもっと大きな何かに対する復讐なのである。このことが『マーダー・ウォッチャー 殺人大パニック』で綴られた作者の心に澱のように漂う恨みとどう関係するのかは分らないが、八神を自分と同い年に設定したことには何か意味があるはずである。おそらく作者本人の止めようとしても滲み出してくる怒りが彼女を突き動かしているに違いない。
人間の怒りや哀しみの感情はそんなに消えるもんではない。八神の協力者で闇社会の女ボス英霊の印象的なセリフ

早死にしたがるやつと、早死にしたやつを崇める連中が大嫌いなの。坂本龍馬なんかより、嫌らしいくらいに長生きした山県有朋のほうがずっとクールよ

は、タイトルの「アウトバーン*1と、このエントリの冒頭のフレーズ*2との関係を想起することを拒否しているように思える。だが、物語の最期に八神の口から漏れる「覚悟している」はfade away」より「burn out」を選択しているとしか思えないのである。だが、しかし、このシリーズの行方を左右しそうなセリフには作者の超個人的な怒りも込められているように思える*3。4年前なんてつい最近のことばかりどといわんばかりに。


おそらくシリーズの次回作以降で「事件」の闇の大きさ深さが少しずつ明らかにされていくだろうが、その設定のデカさに惑わされないように読み続けて行きたいと思う。いつだって一番深い闇はその人の中にあることを訴え続けているのが彼だからだ。