[♀」[映画ジャケ]萎んで、膨らんで、手を打って・・・また萎んで♪ 典子さんへの期待

まずは『バラエティ』83年10月号の目次

活字の大きさからひろ子・知世(写真付)の二枚看板との差がくっきりしだしたころで、まさに

続いて主演が予定されていた『里見八犬伝』(83)を、製作費10億円の大作として展開していた角川は、渡辺典子ではウリが弱いと断定、主演を薬師丸ひろ子にすげ替えてしま
尾崎一男「完成ゆえの悲劇・渡辺典子」『アイドル映画30年史 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

った時期である。
伊賀忍法帖』ヒロインオーディションでエントリーナンバー18という、野球でいうとエースナンバーを背負ってグランプリを獲得したころの勢いは完全になくなっている。まあこの18番(サッカーでいえば10番、ちょっと前のNBAだったら33番かな)も、いまだにエースナンバーとして涌井、田中まーくん、岸田とパの他球団では燦然と輝いておるわけなんだけど、わがホークスの新垣渚は2004年からは3年連続二桁勝利をあげたものの、その後は3年間で11勝、昨年はわずか4登板の勝利0と・・・
それはさておき、この敗戦処理登板ぼい『積木くずし』(典子さん自身この登板を新聞を読んだ友だちに聞いたとか)が女優としての評価を上げることになった。劇場用パンフで田沼雄一は興奮気味に

例のスキャンダルのおかげ?で、棚からボタモチ的にころがり込んで来た由布子役。しかし、渡辺典子は適役だった。けっしてボタモチではない。めぐり逢うべくしてめぐり逢った、絶好のキャラクターである。いま、渡辺典子は確実に二人の同僚を演技の面で追い越した

と書いた。なんとその興奮を説明するのに『女囚701号・さそり』の梶芽衣子の名前を出してまで、である。褒めるのが目的のパンフなんでいささか差し引いて考えなくてはいけないのだろうが、しぼみかけた期待は再び膨らんだといっていいだろう。
てこって、ハルキはひろ子・知世の二大看板の裏ローテの先発投手としての典子さんに期待をかける。杉内・和田以外では全く勝てないホークスに雁の巣で好投した投手が谷間をしっかり埋める期待を、といえばわかりやす・・・くは全然ないだろうが、とにかくにもハルキを団長に「典子プッシュマン軍団」を結成。井筒和幸崔洋一という新進気鋭の監督を顧問にすえ、その結成式で主演作第2弾まで発表するという気合の入ったとこを見せた。その気合が詰まった「バラエティ」84年5月号特集「典子不思議ワールド」では、その第2弾『いつか誰かが殺される』のジャケになる写真がピンナップとグラビアとして掲載されている。
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うん、これで美人アピールはばっちりだ。


ところが、この気合は思いっきり空転りする。上記の田沼の文は

これに人気が加われば、彼女はスゴイ存在になる

と続くんであるが、ちっともスゴイことにはならなかった。理由は簡単である。田沼は『積木くずし』の由布子を「絶好のキャラクター」と書いたし、上掲の「典子不思議ワールド」号でも、典子への褒め言葉として

それぞれのキャラクターをこなすのだから、すごいといえばスゴイ

というの文が載ってるんだが、いかんせん人気を得るには「キャラクター」より「キャラ」が必要だったんである(参考:物語とキャラ/キャラクター - BEAT-MANgus(椣平夢若食い散らかし記))。しかも、敵は知世ちゃん一人ではない。当時は、松田聖子三原じゅん子の先行組に加え、花の82年組と呼ばれた小泉今日子中森明菜堀ちえみ松本伊代とキャラが立ちまくったアイドルがわんさかいたのである(その意味で彼女が熱望した『死者の学園祭』を後に深田恭子が演じるのは因縁めいたもんを感じる)。
いや、キャラが薄いなら薄いで、きっちり判りやすいキャラクターを演じれればまだ良かった。角川映画でいえば「目には目を歯には歯を。あ〜お許し下さいイエス様!?」 の『二代目はクリスチャン』や、「沖田総司はBカップ」の『幕末純情伝』

ような強烈なキャラクターが、典子さんが輝くためには必要だったのである。赤川次郎ではなくってつかこうへいだったのである。あーあ。


特集号の別の頁に「わたしの典子像」という数人の漫画家やイラストライターが典子さんの画とコメントを寄せていて、そこでいしかわじゅん

カドカワもついに美人に手を出したかと思ったのだった。彼女の顔は整いすぎて愛敬にかけるのだが、それはつまり、数年先が楽しみだということなのである

と書いているのだが、「数年」待つことなく、この「愛敬にかける少女」の人気はちっともスゴイなりそうないことは明らかになったのである。
その後一旦赤川シリーズは打ち切り、ひさしぶりに予定された主演作は先行ジャケ文庫

を残し降板。多くの人の脳裏から渡辺典子という名は消えていくこととなる。