ミュータント戦士「しょーことなしに」闘うぅ

ミュータントとは・・・?
「とびがたかをうんだ」という
ことわざがあります。
ミュータントとは…ひと口でいうと、
このとびが生んだたかのことなのです
親とちがったせいしつをもってうまれた子ども
といういみなのです。

サン・ワイド・コミックス版第2巻に収録されている雑誌『少女』掲載版の初回の扉の文章なんだけど、あの石森をしても1961年の少女に対して「ミュータント」を説明すんのにはすごく窮していたことが見てとれる味わい深い文である。この僅か3年後の「増刊少年サンデー」版ではダーウィンやメンデルの理論を紹介しながらあっさり「突然変異」って言葉をつかってるのである。ただ、この『少女』版は重要な意味を持っていて、それは米澤嘉博戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)』によれば

放射能の影響を受けて超能力を持つに至ったミュータント少年サブは単なるヒーローの機能ではなく、キャラクターとしての内面を持たされていた

ということであり、その「内面」を描くために石森は「少女マンガのテクニックをいかし」たのだとして、その闘いを

どちらかといえば、エゴイスティックに、自分と自分の同族であるマリを守るためにしょーことなしに闘う

と評している。
その「しょーことなし」の戦いの中で比較的ほっとするエピソードがある。とある町から超能力で獣を操る少年を止めてくれという依頼にサブが乗り出す「けものの町編」である。まあ例によってサブは使命感に燃えてなんてことではなく、ミュータントに興味があって依頼を受けるんだけど、その少年ゲンはルックスといい、特徴的なあの設定といい、『サイボーグ009』の「暗殺者編」に登場し、009との壮絶な戦いの末に「ともだちになりたかった」の言葉を残して息を引き取った0013まんまなのである。
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またここであの惨劇が再びと思いきや、サブは依頼者側の悪意を読み取りあっさり寝返って、ゲンを説得して行動をともにする。そして、「悪」との壮絶な戦いが始まる・・・わけでもなく、ちょこちょこっとゲンの溜飲が下がるようなことをやって

サブ「・・・これで 気がすんだろう ゲンくん?」
ゲン「ウウ・・・ウン おら もう あばれない」

でめでたしめでたし、とある意味ヒョーシヌケな結末なので、ハードな戦いを期待してる人にはあれれ?となるかもしれない。でも、不定期掲載という形をとった「ミュータント・サブ」の中でも"ヌルい"谷間(ホークスでいえば倉野の先発試合)のエピソードと思えるこの「けものの町」も、1965年前後の石森作品の流れの中に置いて、あまりにハードな『009』「暗殺者編」とセットで読んでみるとそれはそれで味わい深い話なのである。