表裏一体善/悪意と女のシアワセ

常世長鳴鳥」と「瑠璃の爪」を続けて読む。
どちらも妹が姉を殺す物語だが、「常世」の方は、家族の愛情を独り占めした美しく病弱な姉を妹が憎むっていう「悪意」が誰にでも伝わるようになっているのが、「瑠璃の爪」はそう単純ではないようなのである。
一見この話は母親の愛(過保護)を一心に受けた妹に対する姉の悪意と、妹の反発を描いた物語のようであるが、実はほとんどすべての登場する女性が「女の幸せ=良い結婚」という意識に囚われていることへの呪詛であるように思えてならない。そう、表裏一体の善意/悪意は何も姉敦子だけのものではなく、母親も親族のおばちゃんのそれもそうなんである。こんな女の「シアワセ」ならぬ「シワヨセ」にたいして、男である兄と敦子の元夫があまりにも無力であるのがまたなんとも痛ましい。
また、妹絹子の「ちょっと美人」ってのも悲しい。それが他人にとっては「お人形」のそれでしかなく、本人にとっても自分の道を切り開く強力な武器―学業その他で優秀な姉への劣等感を覆すものにさえならないのだ。

発表当時妹の殺意を先回りして殺害する姉、なんていう事件がよく起らなかったもんだ。
※ためしに「瑠璃の爪」でググってみると、「瑠璃の爪を母にきってもらった」という女三代のこの上もない微笑ましいエピソードと、神代辰巳監督、岸田理生脚本、市原悦子主演なんていう恐ろしいドラマがヒットしたりする。
※これが兄と弟が骨肉の争いの舞台「角川書店」から刊行されてるのも意味が有りげ。