20年間変わらない。町山智浩とプロレス

馬鹿野郎!
じゃあ、お前、大仁田みたいに
有刺鉄線に頭から突っ込んでみろよ!
ライガーみたいにトップロープから
場外の鉄柵に激突してみろよ!
後藤のバックドロップ受けてみろよ!
できもしねえくせに偉そうなことぬかすんじゃねえよ!!

昨日の続き、というか<のちほど>の話。

映画『レスラー』が非常に素晴らしい出来だった。同時に『レスラー』のパンフレットに載っていた町山智浩さんの映画評も素晴らしかった。
http://hakaiya.web.infoseek.co.jp/html/2009/20090614_1.html

今から20年ほど前に雑誌「宝島」本誌が「バンドブーム」雑誌になってきたころ、町山師は「別冊宝島」編集部に移った(追いやられた)、それから2年ほど彼の出すMOOKにプロレスは欠かせない要素だった。


まずは岩上安身さん*1が書いた天皇関係のルポに抗議した右翼が女子プロレスおたく(それもジャパン女子の)だったことから『104おたくの本』の企画が生まれ、「Mくん」事件のおかげでベストセラーになった(この本のヒットがなければ、「映画宝島」も「映画秘宝」もなかったはずなんで、秘宝はキューティ鈴木にもっと感謝して、鈴木則文特集では『びんばりハイスクール』を大きく取り上げた方が良いと思うし、デビル雅美にも感謝して、主題歌を担当したTBSドラマ「赤い秘密」を取り上げた方が良いに決まってる)。


次に「映画宝島創刊準備イチかバチか!号」では、「発掘!幻のアンチ名画映画祭」で、中島らもさんが取り上げた「マッド・ドッグ・ジョー」(ここでらもさんも「男子もののちゃんとしたプロレスものがほとんどない」とダーレン大橋・アロノフスキー監督と同じ嘆きを吐露してる)に対しても

M 那須博之の『美少女プロレス/失神10秒前』も『カリフォルニア・ドールズ』に捧げられた傑作だよね。あと、タイガー戸口が出た『レッド・ブル』とか

と元全女の佐藤ちのに対するリスペクトを忘れないコメント*2


その次が上記の啖呵!で始まる『プロレスに捧げるバラード』。今回のパンフでは、同じ「プロレスはインチキだ」という難癖に

真剣勝負ではダメージをできるだけ受けないように防御する。避ける。でも、それは普通のことだ。
普通でないのは、敵の攻撃をわざと受け、逆に「もっと来い」と顔を突き出すこと。自ら死のダイブを敢行すること。自らそんなことする人間はいない。
プロレスラーとキリストの他には。

と幾分ソフィスティケイテッドされた表現ではあるけど、同じことを言ってる。『レスラー』のセリフにもあるように、プロレスはまさにパッション(受難)なのだ、と。


そして、91年に出された『異人たちのハリウッド』。流智美さんの「移民の歌」少数民族の祭典としてのプロレス」はレイシャルエンターテイメントとしてのプロレスの虚構性を暴く。

ニセの冷戦ショー
例えばイワン・コロフの本名はウィリアム・マクナーティでケルト系である。だから、ハルク・ホーガンがイワン・コロフをKOして、リング上で星条旗を振り回しているシーンは、完全な"コメディ"以外の何ものでもない。

これは、まさに今回の「ザ・ラムVSアヤトッラー」の対決の図式そのものだ。ただ、それをことさら糾弾したりはしない。
「ベルジャンスープレックスになったら語呂が悪いだろ」byルー・テーズ。



町山師の20年経ってもこのようなプロレスに対する「畏敬の念」はちっとも変わらない。
でも、20年後の今現在、可愛い娘さんをすげー大事にしてるのがランディとは全然違うけど。

参考

サブカルチャー世界遺産 (SPA!BOOKS)

サブカルチャー世界遺産 (SPA!BOOKS)

*1:ちなみに「角川家の一族」も町山・岩上の仕業

*2:長与千種の『リング・リング・リング』はこの号が出された後の作品。念のため