松恵んち
「鬼龍院花子の生涯」を読んだ。
これは凄い。
ホントいろんな要素が幾重にもうまーくブレンドされていてる。
ひとまず「純愛小説」としても読める。
松恵が初めて彼からの手紙をもらった時の
危うく涙がこぼれそうになった。小さい時から涙は松恵に寄りそう仲良しだったけど、それは皆、悲しさを耐えるための力綱であって、こんなふうに嬉しくて溢れた涙は初めてだった。
のあたりはまるで少女マンガみたいで、その後にこんな展開が続く。
結婚は、目に見えぬ糸の両端を持っていた男女が手繰り寄せられるもの、と聞いたことがあるが、自分の手の糸の向こうは何という素晴らしい人であろう。
京都、高知と離れていても心のたけを見せ合える便りのやりとりさえあれば、生きる勇気は徐々に手足に充ちて来る。
まるで「赤い糸」みたいで、BGMもオレンジレンジ「以心電信」でも似合いそうな文章だ。でも、その次の段落にはいきなり津島利章のあの音が鳴り響くかのように
鬼政のが女子供を西の家に移し、荒磯を向かい撃つ態勢に入った。その夜は何事もなく、午後の時雨が木枯らしに変わったあと、一晩中樟の葉音がざわざわと聞こえている
なんて"出入り"の話になる。アレッと思ってたら、最後に「なお山口組に関しては、飯干晃一氏の著書を参考にしました」とあって、なるほどねである。参考にしてるのはたぶん
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そんでもって全編を貫いているのは花登筺ほどはウェット過多じゃない女性の根性物語で、なるほど映画化の最初の松恵のプランが『あゝ野麦峠』の大竹しのぶだった*2のは納得である。ついでにいうと『ザ・商社』の際も初めのキャスティングではピアニストの友だちだったのを、和田勉との面接で夏目が「10年たったらこの役やりたい」といったのを和田が「今やればいいじゃない」といってひっくり返ったとのことである。*3
しかしまあこんなすごいもんを書けたもんであると感心しながら、全集14巻をめくるとこの作品に関するエッセイがあった。宮尾先生が亡き父上の日記をよんでたら、作品中の鬼政が松恵に実家へ金の無心をさせにいく元ネタがあったので、興味を持って鬼頭組のことを調べていくうちに松恵のモデルに当たる人を紹介されたとのことである。
で、このエッセイを読んで尚更ヒドイ話の連続なのにどっか爽やかな読後感に
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「なめたら、なめたらいかんぜよ」について
ブクマでご指摘があったように、原作にはかの有名な「なめたらいかんぜよ」はない。愛する夫(映画の左翼活動家ではなく、高校時代に近所に下宿していた軍人の息子)のお骨のシーンはあるのだけど、映画のように啖呵をきって奪い取るのではなく、夫の家族の目を盗んで骨箱からこそっと持って帰ってくることになってる。ではこの「なめたらいかんぜよ」が小説の世界観を壊してるかというとそうでもなく、名ばかりの養女として家に入り、奉公人として暮らしてきた(さらに鬼政は松恵の身体をモノにしようともした)ものの、松恵の身体には侠客の家の血がどくどくと流れていて、後妻や妹(実子)の体たらくに対する怒りのモードはまさに「極妻」そのものの描写がいくつも出てくる。
まあ、あれは夏目雅子だったからであって、大竹しのぶのままだったらあそこまでハマったとは思えないけど。
で、これ案外大河『篤姫』の脚本・田渕久美子、主演宮崎あおいってコンビでリメイクしていいんじゃないかな。今度は花子が生涯を終えるまでを描くってな年末4時間スペシャルくらいの尺で。そんで、花子の息子で刑務所入って母の死に目に会えない寛は高岡蒼甫で。
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