コーチKと星野カントク

星野監督「たたくのは時間止まってる人」 - 北京オリンピック 野球 : nikkansports.com
そうですね。今更星野仙一を責めるのは間違ってます。彼が監督に就任し、コーチが大学の同期生二人という五輪にメダルを獲りにいくよりテレ東の温泉番組の方が似合う布陣になった時に予想ついたことですからね。
ブックマークにも書きましたけど、これは日本代表の監督をWBCも含めて、「指揮官としての資質」より「知名度」「人気」つまりや「広告価値」を優先してきた結果です。
で、仮に「監督」はそういう決め方をしてもですよ。コーチに黒江透修伊原春樹権藤正利山田久志などの名前が並んでいたらまだしも、アテネに至っては巨人ファンのねじめ正一をして"2匹目の猿"といわしめた人間が実際に指揮とる始末でした。今考えればよく予選勝ちあがって銅メダル獲得したもんです。
こんな体制で「金確実」とかほざいてたのは不思議でしたが、70年前のかの地でもすぐに「勝てるもん」ってのが・・・


で、今回日本の野球チームが「勝利」度外視の指揮官人事をするなか、日本の野球とは比べものにならないくらいの「金メダル」獲得へのプレッシャーがあったのが、アメリカ合衆国のバスケットボール男子代表でした。
アメリカの男子が金を逃したのは3回(不参加のモスクワ除く)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E7%AB%B6%E6%8A%80_(%E5%A4%8F%E5%AD%A3%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF)
ミュンヘンのゴタゴタの末の金逸のあとのモントリオールは、その後NBAで活躍する選手であっさり奪還。
ソウルの後のバルセロナではご存知「ドリームチーム」(以下DT)で決勝の前半以外は危なげなく圧勝。

で、前回のアテネでは、怪我治したいいや、テロがあるからいや、裁判中だからいけねなどなどの理由でスター選手の辞退が続出した結果が銅メダルがやっと。弱いチームを強くする天才ラリー・ブラウンをしても、です。

今回もこんなニュースが流れた時は「やっぱり俺いかね」なんて選手が続出するかと思ってたんですけど、どうやらそれは何らかの形で解決したんでしょう。
が、問題はそんなところではありませんでした。前の2回と違って、単に有名な選手だけ連れてきゃどうにかなるってもんではなかったわけです。

アメリカチームを悩ましたことがいくつかあって、まずは「ルール」(とその解釈)の違い、ルールそのものも違うのですが、解釈の違いも大きくて、実際決勝戦でもトラベリング(いくつかあるんですが、代表的なのがNBAやNCAAは多少歩こうがダンク決めりゃお咎めなし)やバックコート・バイオレーションに戸惑う姿が見えました。ただ、そんなもん行く前から解りきってることなんで、ちゃんと対策を整えるがコーチ陣の役目です。負けた後にボールストライクの判定にぐちゃぐちゃ言うのはみっともない話です―その意味では今になって星野監督に、というのもいっしょかもしれませんね。
二つ目がサイズ。現在のNBAでセンターを貼ってるビッグマン多くがアフリカやヨーロッパ、あと中国からの選手だったりするのもあってアメリカチームのサイズ不足はいかんともしがたいわけです。で、彼らがアメリカでプレイすることによってインサイドでの強さを備えてしまった。アトランタの「DTⅢ」くらいまではシャック、オラジュワン、ミスター・ロビンソンが完全にペイントエリアを我が物顔で支配してましたが、それ以降は海外出身の選手が全く当たり負けしてくれなりましたし、それ以前はターンしてジャンプショットが多かったの彼が、接触をものともせずダンクを積極的に狙いに行くようになったんです。

で、三つ目が最大の目の上のタンコブが「ゾーン・デフェンス」。NBAは今でこそ一応ゾーン解禁(それまでもマッチアップゾーンなんてもんはあった)しましたが、それでもディフェンスの3秒ルールなんて制約があって完全なゾーンには苦労するのが目に見えているワケです。ゾーンを攻めようとすると自然に外からのショットが多くなります。まあ、全部決めればいいんですけど当然落ちるシュートが出てくる。以前だったら蹴散らすことも出来たでしょうが、今や自分たちより高く、充分に強いフロントコート陣がいるからさあ大変。

そこで白羽の矢が立ったのがコーチKことマイク・シャシェフスキーだったのです。
マイク・シャシェフスキー - Wikipedia
以前からコーチKをご存知の方、今回の五輪放送をご覧になった方(そうじゃない人はWikipediaをよんでください)はご存知の通り、彼は「大学のヘッドコーチ」でNBAのコーチじゃありません。ただ、これが彼が「プロのコーチ」ではないことは意味しません。それは井村雅代宇津木妙子の両氏がまごうことなき「プロ」であるというのとともちょっと違ってます。
日本のプロ野球と違ってアメリカのプロスポーツにプロ/アマの厚い壁なんていう不毛なものは存在しません。優秀なコーチはプロとアマを行ったりきたりします。例えば前出のラリー・ブラウンもUCLA等の大学でのコーチ経験(ついでにいうと『俺たちダンクシューター』の舞台となったABAでのコーチ経験も)があります。で、これまた日本と違ってカレッジスポーツがビジネスとして成り立っているアメリカでは大学のコーチをすることで富と名声を獲得することが可能な訳です。例えば彼の師匠であるボビー・ナイト。「DT」のメンバーでボストンの至宝だったラリー・バードはインディアナに入学後、彼とソリが会わずブッチして、州立大に移って大活躍します(その時の好敵手が同じく「DT」のマジック・ジョンソン)。それから、ノース・キャロライナ大のディーン・スミス。別名「マイケル・ジョーダンの平均得点を30点以内に抑えられる唯一の男」。MJはシカゴ時代のコーチフィル・ジャクソンのことは「フィル」と呼びますが、スミスのことは「コーチスミス」と呼んでます。とあるインタビューで「なんでディーンと呼ばないんですか」との問に「大統領(当時)をビルとは呼ばないよね」と答えてます。この辺が有名な大学のコーチがNBAに行かない原因の一つと思われます。一時期「プレイヤーズ・コーチ」なんて言葉と人が持て囃されたことがあって、選手との距離が近く、出来るだけ選手の気持ちを汲み取るコーチのことをしめすものでしたが、この手の大学の超有名コーチはその対極ある、「先生」タイプの人たちということが出来るでしょう。そんな彼らは選手が気持ちよーくプレイしてもらうことも重要な仕事であるNBAのコーチなんて真っ平御免なわけです。

コーチを引き受けるにあたって、「私の定めた規律を守らせる」ってなことを条件にしたことを推測するのはあながち間違ってないと思います。
そんなコーチK率いる今回のチーム。中心選手の二人コービーとレブロンがどっちも高校出のプレイヤーなのも今のNBAらしいですね。


で、なんのかんのあってのオリッピック決勝のスペイン戦。スペインがそれまでのアメリカとの戦いとは別の戦略をとってきました。
バルセロナシドニーあたりまではやたらアメリカチームのファストブレイクが目立ち、相手はゆっくりと時間をかけて攻めるというのが見慣れた風景でした。これはアメリカは相手の容易にパスをインターセプトされ、そのままダンク。相手は点数が離されるのをおそれてゆっくり攻めて、ロースコアのゲームに持ち込むといった展開ですね。ただ、これ自分たちの攻撃回数を減らすことにもなりますんで、積極的に勝ちに行くってことではありません。
そんでもって今回の決勝。あきらかに速攻の数が減りました。以前ならとられていたパス(サッカーの日本代表がアフリカのチームと対戦するときによく言われる、相手のリーチの長さ、反応の速さにょって国内では通るバスが通らない)が減ったのともに、「点数のいれやいでも負けない」ってな流川楓なスピリットを持ちアメリカ相手に互角以上の試合を続けたのです。
そして、リードを許し、序盤の激しいファール合戦でコービーとレブロンがベンチに下がっった後がコーチKの本領発揮でした。セカンドストリングといってもいい彼らに攻撃ではシグナルを送り続け、決まりごとのオフェンスを繰り返させ、防御ではかってのNYやデトロイトのようなしつこいディフェンス―チャック・デイリーのいうところの"子犬が足にまとわりつくような守り"を徹底させました。その中にはやはりプリンスがいましたし。ここでNHKの実況席もアメリカが突き放すと見てみました。
ところが(つづくかも)