博士の非常なる愛情
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で、「浅草キッドの北野武映画全解説」の
博士 (略)殿本人には、いい意味で映画への畏敬の念みたいななのがないんですよ。
ってのはいかがでしょう。ほかの雑誌ならいざ知らず、ずいぶん減ったとはいえ初期秘宝主義者はまだまだおりまして、
ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判 3 (映画秘宝COLLECTION 37)
- 作者: 町山智浩,柳下毅一郎
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思春期に観た映画の影響をこねくりまわす『TAKESHIS』
ウェイン たけしが何をやりたいのかわかった。フェリーニだね。
ガース そう、フェニリーニの『81/2』(63年)なんですよ。映画作家の想像がそのまま現実に侵食してくるという。
(略)
ウェイン しかし、あれだね。たけしは大学中退した頃、60年代の東京アングラ文化にどっぷり浸かって、フェリーニやゴダールの映画をいっぱい観たと言ってるんだけど、いまだにその辺にこだわり続けてるんだねぇ。
ガース 『ソナチネ』(93年)なんて、南の島に行った主人公が自殺するというプロットからしてゴダールの『気狂いピエロ』(65年)でしたからね。
ウェイン あれは企画段階から『沖縄ピエロ』と呼ばれていたくらい、『気狂いピエロ』をやろうとしたんだけど、映画評論家とかが全然気付かないもんで、業を煮やしたたけしが『週間ポスト』誌の連載で自分で「オイラの映画を理解したけりゃゴダールの映画とかちゃんと観ておけ!」と言っちゃったんだよね
まあ、大学中退したころが「思春期」かどうか意見が分かれるところでしょうね。もし、そのころを「思春期」ではないとしたら
思春期の映画的記憶みたいなのが薄いから、そのジャンルに対してぜんぜん畏怖がなく媚びない。
の「デビューしてから」や「思春期の〜」はOKになるでしょうが、それにしても思春期とデビューの狭間の時期をスルーしても言いということにはならない。
本当に映画的記憶みたいなのが薄いなら、今回の『監督・ばんざい!』で、わざわざヴェンダースの名を出して小津安二郎風の映画を作る「ことの次第」を語る必要はないのではないだろうか。
これは博士なりの愛情の表れなんだと思う。
そう、北野武以上に「映画的記憶が薄く」「映画に畏敬の念がない」(と少なくとも世間一般が思っている松本人志監督『大日本人』が同時期に公開されるゆえの。
でもさ、それって杞憂なんじゃねーのと思う
で、『監督・ばんざい!』は北野武の映画的記憶と畏怖にあふれてた快作なんだ、と思う。
たしかに『83/4』ちゃーそうなんやけど、一番得意な「ギャング映画」はやっぱりウマい(寺島進の登場だけで爆笑してる人どうかしてるよ・・・僕もだけど)し、初めから負け戦として挑んだ「小津」はきっちり負けを認めているところが潔い。で、その後の恋愛ドラマがぐだぐだなのは狙いなんだしね。でもってテキトーにとってるホラー(怪奇映画)が『口×け女』より、時代劇が『シ×ビ』なんかよりずーっとちゃんとできとるのは問題なんじゃないかと思うくらいそれなりの緊迫感があった。「30年代ドラマ」は記憶喪失的レトロ「×丁目の」だけでなく井筒監督まで茶化しながらもしっかり社会派までしてたりするのだ*1
ただ、一番尺が長い「SF」→「・・・?」の脚本が若干弱い気がした。浦沢義雄の姿が見え隠れしたりしてさ。でも井手らっきょの本名とか犬とカメのことしんないと笑えないギャグなんかとベタなギャグの混じり具合も良かったはず。
そんなこんなで博士のあれは「秘宝」では不要だったんじゃない。
博士の不要な哀情だったと。
*1:『パッチギ』や『プルコギ』などの貧しい家屋の描写って、民族云々を抜きにして、僕の小さい頃は実際にちょっと離れた集落にはあったんだよなぁ。