四畳半サイバーフォーク

大純情くん (1) (講談社漫画文庫)

大純情くん (1) (講談社漫画文庫)

絵に描いたような(実際描いてあるんだけど)「アッパークラス」と「ローワークラス」のある世界のローワーサイドに住む、ブサイクでダメな物野けじめを主人公とする四畳半サイバーフォークの傑作。
これが描かれた1977年は作者松本零士がノリにノッてる時期で、『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』や『銀河鉄道999』と同時にこの話を描いてたというのは奇跡というほかない。
参考(松本零士連載・読切リスト(年代別)@松本零士Encyclopedia)
けじめが棲む四畳半アパートはまんま『男おいどん』の下宿館なのだが、その町の周りは清潔で機械化されたビルが乱立しており、そこだけがぽつんと大昔のまま(連載当時のリアルなビンボーと小金持ちの住む町)の姿で存在している。
中盤までは謎の美女島岡さんやアパートの大屋のババアや親友近藤(鉄ちゃんで機械オタ!)とのふれあいを通じた少し不思議な少年の成長譚なのだが、島岡さんの正体(ある巨大な計画に抵抗するレジスタンス)が少しずつ明かされるころから俄然話は白熱していき、そのアパートのアジールとしての姿が浮かびあがってくる。

ラーメンとパン

そんな大山昇太ミーツメーテル(&エメラルダス)な物語をちょっと象徴しているシーン。それ。

けじめが上界の「大立体テレビ」の番組で見世物となるバイトをするってなエピソード(「かなしきテレビ出演)で、その下界の人間の生態(食生活)観察のためにだされたのがラーメンとパン。ラーメンとライスじゃなくてパン(たぶん合成品)というのがね。
でもってその時TVがつけたナレーションの一部に

そして 神に
このようなものが
一日もはやく
地上から
消え去ることを
いのりましょう

というのがあるのだが、物語の終盤の人類デリート計画でまっさきに消されたのはそっち側の人間なのだ。

なんという結末

んでその計画をコンプリートさせないために、けじめ、島岡さん、近藤の三人は地中深くの中枢部に潜入し・・・となるのだが、最後に一人が犠牲になっての一人が××というのがミソ。「一組のアダムとイブがいれば人類は滅びたことにならない」というセリフや、近藤の下の名前「いさむ」というのを考えれば捨石になるのは○○という気になるのだが、やはり××には忘れらない恋人の存在が最初の方で語られているんだっけ。
そこで読むものには人類滅亡を回避した喜びより、大失恋の痛みが残り、そして、物野けじめの心から叫び

美男子が支配する 世の中が
いつまでも つづくと思うたら*1
大間違いだど
世の中 80パーセント以上くらいは
ブ男ガニマタ インキンタムシ だからな
おぼいちょれ ちくしょ〜〜〜っ
(「命がけのアルバイト」より)

が思い出される。
つい最近まで20%の方と思ってたんだが、それが大きな勘違いであったと40過ぎてやっと気付いた僕にはその言葉がかなり効いてる。
なんて哀しい物語なんだ。

大純情くん (2) (講談社漫画文庫)

大純情くん (2) (講談社漫画文庫)

※もしこの作品をリメイクすんなら羽海野チカだなぁ

*1:この物語には忘れた頃に「九州言葉」が出てくる