トラビスのいる透視図

つねづね日本映画で『沙耶のいる透視図』がいちばん好き!なんとほざいていたくせに、パンフレットを手にいれるまで、名高達郎演じるカメラマン橋口の部屋のドアに張られてるポスターのが『タクシー・ドライバー』だったなんて気づかなかった自分に呆れる。
この映画が公開されたころからかなり最近まで『タクシードライバー』のVHS・DVDジャケットといえば、今現在のモヒカンヅラのジャケ

じゃなかったことを考えると、重ね重ね呆れる。

そんでもって今回見返すと、すごく印象的なショットだったので、ほんと恥ずかしくなった。たーだ、橋口の人物造形に特にトラビスが影響してるわけでもないんで、おそらく和泉監督の「趣味」なんじゃないかな、とは思うけど。

橋口の部屋には他に(『晴れ、ときどき殺人』でも映画マニアの母の隠し部屋にも貼ってあった)『カサブランカ』のパネル

も飾ってあって、これはまあ「三角関係」を示してるんだろうけど、

スタッフ!!

スタッフ!!

がジャケットがディスプレイしてあることはマジで謎。まあ猫も杓子もフージョン聴いてたってことなのかなぁ。

[本]プロジェクトA

で、この前手に入れた原作本(第6回すばる文学賞受賞作)

沙耶のいる透視図 (集英社文庫)

沙耶のいる透視図 (集英社文庫)

を読み始めた。
※ちなみにWikipediaの「1986年「沙耶のいる透視図」が映画化される」は正確な表現ではなくて、正しくは『83年に製作されていた(3年間お蔵入りしてた)『沙耶〜』が公開される」である。
しょっぱなから橋口の一人称が「僕」なのに驚くが、読み進めると神崎(映画では土屋昌巳)が「ぼく」なので、二人の対比が文字ではできるのだが、「音」ではという配慮から映画では「おれ」が採用され、それにともない人物そのものも「おれ型」の人間に設定されたのじゃないかな。
で、映画ではなぜ神崎が自分を「サブカルスター」と呼ぶのがいまひとつ解らなかったんだけど、映画ではビニ本を作ってる彼らが、原作では自販機本を作っていて、所属している会社が「プロジェクトA」ということで、そのあたりが腑に落ちる。
google:アリス出版
いや、これ、わざわざ土屋昌巳まで引っ張り出してきて、この部分を省くと意味通じないじゃんかと思うが、まあそれが『沙耶のいる透視図』だから。当時の独立プロの人たちの「NOW」ってのが、上記『Hot Stuff』だったり、出会いの場所を池袋から青山に変えたり、「なーんちゃって」や「〜していいかな、いいとも!」、「がーんば」ってなセリフだったりしたんだろうなぁ、とか考えるとこの映画がよりいっそう愛おしくなって、原作をめくる手が止まるのでした。なーんちゃって。

ショッポはショッポ、モアはカールトン

その影響が「ルパン三世」(企画書の名言"この世に「車」や「拳銃」なんてものはない)なのか、はたまた大薮春彦なのか、田中康夫「なんクリ」なのか、原作では登場する酒の銘柄が記してあって、例えば

サイドテーブルの端に空のシーバスの瓶がが倒れ、その横に半分あけたゴードン・ジンがある

とか。ちなみにこの時代、シーバス・リーガルはコンビニで簡単に手に入る酒ではなかった。
んでもってタバコもそうで、橋口がショートホープ、沙耶がモアを吸ってることになっている。映画ではショッポはそのままなんだけど、モアがカールトンに変更にされている。現行のDVDジャケでは陰に隠れてみえないんだけど、パンフの表紙では目立つように(何かを主張しているように)置かれている。

名高は普段Winstonを吸ってたそうなんで、監督・美術部の意図なのは確か。
まあ、モアの赤い箱では画面での座りが悪いってことなんだろうけど。
案外、ビニ本・編集者・過去にワケアリの女性って構図が似ている、石井隆脚本の名作メロドラマ『天使のはらわた 赤い教室』の「赤い」への対抗意識だったりして。

すばる映画

芥川賞映画に続いてのすばる文学賞映画一覧表。
吉川良「自分の戦場」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=243408
又吉栄喜 「ギンネム屋敷」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=282086
本間洋平家族ゲーム」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=265350
伊達一行 「沙耶のいる透視図」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=239850
藤原伊織ダックスフントのワープ」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=796690
本城美智子 「十六歳のマリンブルー」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=265394
辻仁成 「ピアニシモ」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=273711&ct=
大鶴義丹 「スプラッシュ」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=123021
デビット・ゾペティ 「いちげんさん」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=287873
金原ひとみ蛇にピアス」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=747085



ついでに「小説すばる新人賞」の方も。
花村萬月 「ゴッド・ブレイス物語」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=273396
篠田節子 「絹の変容」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=129807
村山由佳天使の卵-エンジェルス・エッグ」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=486297
早乙女朋子 「バーバーの肖像」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=118135
荻原浩 「オロロ畑でつかまえて」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=757645
竹内真 「粗忽拳銃」
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=787252
三崎亜記 「となり町戦争」○
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=779257