あとがきに圧倒

町山師父の日記http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060307で紹介してあった

38度線突破!―初めて北から逃げた在日朝鮮人、金幸一の575日

38度線突破!―初めて北から逃げた在日朝鮮人、金幸一の575日

を読んだ。
引用してもらっておいて、どっちも読まずにおくのも何だかと思って

北朝鮮の地獄のような実態ももちろん暴露されているが、僕は文章を「けんかえれじい」風に仕上げたので、痛快青春小説としても楽しむことができます。

ということなのでこっちを選んだのだが、実はさほど痛快ではなかった*1のは残念なのだが、そんなことどうでもいいようになるくらい、この世の地獄の描写のリアリティに参った。「帰国」直後から次から次へとトンデモないことが起きていくのである。で、今でこそ金氏朝鮮の「実態」は報道番組で垣間見えるようになって、この金さんの体験談もなるほどと思えるようなったのだが、この本が出版された当時はあの国の様子は「朝鮮松のカーテン」に隠されてていて、出版時に読んでいたらにわかに信じられなかったかもしれない。そのくらい書かれている内容は悲惨で、あの国の体制がマジで変なのである。
で、さらに驚くべきはあとがきである。その中でこの本に描かれた地獄がまだほんの序の口に過ぎず、その後かの国でこのような"活劇"が不可能になったようなのだ。つまり彼のような分子はさっさと"マグジャビ"の網にかかって殺されてしまった可能性が非常に高いのだ。
なんとなく軽ーく読めた本文に対してあとがきの重苦しさったらない。もう巻末の帰国者行方不明リストには一瞬息が止まりそうなったほどだ。

ただね

と殊勝な気持ちにもなったけど、ちょっとプスッときたところもあったりして。
だって、唐突に(少なくとも金幸一さんの趣味じゃないね)

それはパール・バック女史の『大地』と同じくいつまでも続いていくのである。

とか

憎むべき犯人に対しても、同情する思いの方が強かった。ちょうどジャン・バルジャンのように・・・

っていうのが出てくるんだけど。流石にこれはやりすぎ*2でしょ。で、しばらく出てこないと思ったら「注文の多い旅館」なんてもんがこそっと・・・
まあとにかく面白いことは確かなんで読むことは大賛成である。アマゾンでもそんなに高くないしね。
※それにしてもコメント欄どうなることやら。

*1:脱出劇自体が終盤になってやっと始まりあっさり終わる

*2:もしくは『やりにげ