僕が経験した最も変な旅行

僕自身は旅行がさほど好きな方でない。旅に行くより家の中で本を呼んだり、ネットやTVやDVDを見てた方がずっと楽しい…人間であった。
んが、今の相方が旅行が大好きなもんで、なんだかんだで3、4ヶ月に一回は行くようになった。当然、我が家のイニシアチブは彼女にあるので、僕の意見など全く無視してとっとと旅先と日程を決定してしまうのである。ただ、行った先では僕の意見を優先してくれるのでちょっと旅行もいいかなぁと思い出している。
まあ、そういう出不精な人間なんで学生時代に一人旅をしたなんていうこともないので、非常に貧相な若者時代を過ごしてきたのかもしれない。
そんな僕の人生の中で話題になりうる旅があるとしたら、「車椅子夫婦の新婚旅行の付き添い」だけだと思う。
学生時代の友人*1がいきなり
「ねえ椣平くん。弟たち夫婦の新婚旅行の付き添いに行ってくれんね」
なんて言ってきた。僕は車の運転が出来ないので「ほかの人のほうが良くない?」と言った。「それにもっと気がつく人の方が」とも。そうすると「車は弟がするし、あんま両方が気使わない人の方がいい」とか言われて、周りは周りで「一番暇なんはお前」とばかりに既に決定事項であるかのようだった。
「で、行き先はどこ」
「長崎!」
ご存知の通り長崎は坂が多い。二人の車椅子を僕一人じゃとても押せるわけがない。
「俺一人じゃ絶対無理」
「だから君なんよ」
「なして?」
「長崎の知り合い呼んでくれればいいじゃない」
「長崎に知り合いなんかおらん」
長崎大学には?」
「直接の知り合いはおらんけど、生協経由ならなんとか…」
「ほうら、そんな厚かましいことできるのは君だけやん」
僕は頭がクラクラした。でも、言われて見たら確かにそうだ。本当は僕は非常に人見知りなのだが、その頃はそう思われるのヤで虚勢を張ることが多かった。敵はそのこと総て把握して言っておるから始末が悪い。まあ僕はその要請に応じるしかなかった。
うちの大学の生協組織部に(借りを作るのは癪ではあったが)頼んでもらうと長大生協の人たちは快く引き受けてくれたのであった。しかし、当時は携帯電話なんかほとんどセレブの持ち物だったのでけっこう打ち合わせは面倒だった*2が、向こうがとにかくいい人たちなんで何とか待ち合わせの場所・時間を決め向こうの人数をどうするかとかとかなんとか決めているうちに…俺何やってんだかとは思わないではなかったが、一銭も金出さなくて、上手いもん食えそうだしラッキーかもと思うことにした。
で、あっという間に当日を迎えた。
僕は助手席でなんだかなぁと思いながらも楽しく*3長崎に向かった。
なんだかんだで長大生協の人たちと合流し、いかにもな観光地巡りをやった。
僕としては「美味しいちゃんぽん」とかハシャイデいたんだが、向こうは真面目な貧乏学生で「すみません。あんまり知らないんですよ」とかいうし、問い詰めると「実は人気ナンバーワンはリンガーハット」なんてミもフタもないこと言い出すし。結局何を食べたとか憶えてない。
しかし、本当にいい人たちだった。彼らのおかげでスケジュールはメチャクチャスムーズにいった。あの時はどうもありがとうございました、改めてお礼を言っておかんと罰が当たりそうである、まあいつもバチアタリなことをしてるんだが。
長崎最後の夜、僕は二人を部屋に押し込んで一人で街に繰り出した。一応今回の付き添い費とかってことでエロいとこ一回分くらいのお金貰ってたから…しかし、街で訊くと*4「長崎にはエロいとかが無い」というではないか。
「僕はこの街には住めんなあ」と思いながら焼き鳥屋で酒を飲んでいると同じ言葉をどっかで聞いたのを思い出した。
そう、以前僕に今回の件を依頼した人間(つまりは旦那の兄貴)と、あるイベント関係で長崎に行った時のことだ。あまりの坂の多さに閉口して、やつははっきりそう言ったのだった。
「俺はこの街には住めん」

*1:彼も車椅子だった。彼は電動車椅子の運転が凄く上手くかった。

*2:一方が土地勘の無い場所でお互いが初対面ていうのを、今携帯なしで行う自信が無い、というのが一番。あとお互いが大学にいる間しか打ち合わせが出来ないというのも。

*3:出るのが億劫なだけでいったん出ると楽しんでしまうのである。

*4:長大の子は真面目そうだったので聞けなかった。