小沢くん

何年か前にどこかのバーで初対面のカップルの男の方とどういう流れだか
犬キャラは好きなんですけどね」
ということをお互いが言い出したことがあった。女の子の方は怪訝な顔をしていたが、僕の話を聞くうちに「私は今でも好きだけどあなたは仕方がない」という感じで納得してくれたみたいだった。
僕の話はこうだ。
小沢健二を観に行った。そのときのベースが井上富雄だったので、これは前に行かな!とばかりに自分の半分くらいの年の女の子を掻き分けて、ステージの下手の真ん前までやってきた。
最初は楽しかった。年なんか知るかと思えた。
が、途中で「新曲」なんてもんをやり始めたところから、少しばかり違和感を感じ始めた僕はすごすごと壁際に行った。まあ、年だから仕様がないと壁にのんかかり座ってみることにした。
あれ?目の前で見たものはあまりに醜悪な光景だった。後ろ半分の客がノってない。ノりかたがわかんないんじゃなくてノる気がなさそうだ。あまりに熱がない。興味ないんか?
でも、小沢くんがポーズを決めると「キャー」とか言っている。
お前たち何しに来たんだ?
僕はだんだんどうでもよくなってきた。後半のほとんどは肘ついて2階の招待席にいた片岡知子を見ていたようなもんだった。
でだ。お約束のアンコールが来て「今夜は〜」が始まった途端に会場中がヒートし出した。とほほ。反対に僕の気持ちは底まで冷えた。
お前ら今までボーっとしてたのなんだったんだ?単にラッッピングしたかったんか?これたしかソールドアウトでこれなかった人もいるんだろう。
もういたたまれない気持ちになった僕はそそくさと会場を出た。
あんなヤツラと同じ空間の空気を吸ってたのが腹立った。
小沢くんが悪いのじゃないのかもしれない。ただ、ストーン・ローゼズの時は周りなんか関係なく、僕はずっと泣いていた。小沢くんの奏でる音は僕をそこまでの気持ちにはさせてくれなかったことも確かだった…
ところで、あのカップル、その後どうなったんだろう。