あまりにも不完全なシンカー

投手は孤独だ。訳20メートル先に顔を隠した味方が一人、中立者(主審)が一人。そして、次々に顔を見せる敵打者。

で、始まる『九回無死満塁 マウンドの孤独』西間類は変な本である。タイトルが「ノーアウト」なのにPNが「ツーアウト」だからではない。そんなもんはこの本の変さにとってほんの些細なことなのだ。
投手を主題にした本は多い。フィクション、ノンフィクションにかかわらず、それらは名投手、もしくは名投手になれなかった不運・悲運な投手、それもMLB、プロ、社会人、学生野球、少年野球で何らかの活躍が人々の記憶に残ってる投手のことを綴ってある。例外的に「難病」の少年が野球を志半ばにというのもあるにしても。
しかし、この本の「主人公」はそれのどれにも当てはまらない。一人称で語られる投球にまつわるアレやコレは決して注目を集めるような類の試合のものであはない。全くどういう試合で彼が投げているのか一切語られないので、推測するしかないが、それは職場や学校での野球大会以上のものではなさそうなのである。仮にそれがパーマネントなチームだとしても、「早起き野球」の域を出るものではなさそうなのだ。であるから、タイトルにある「九回の無視満塁」というのも、実はそんなに深刻な状況ではなく、大差で負けた試合で、何の期待のプレッシャーもない中で、単に制球力のない著者が投げた球がストライクを取れなかっただけなのかもしれない。